ジェヴォーダンの獣:伝説的な獣害事件の真相と獣の正体を探る!

狼の画像 その他

獣に人が襲われる事件は、どれも生々しいものです。

事件の詳細に触れると、自分の臓物が食われているような気になったりしません?

でも「ジェヴォーダンの獣」の事件はそうでもない。

昔、フランスでオオカミのような猛獣が、3年の間に何十何百もの住民を襲った事件です。

映画にもなっていますね。

おそらく、世界一有名な獣害事件でしょう。

でも、どこかおとぎ話というか、伝説めいていて、僕はあまりリアリティを感じないんですよ。

海外であることと、250年前という古さのせいでしょうか。

「鉄仮面」とか「ハーメルンの笛吹男」みたいに、史実なのに物語化しちゃってます。

獣の正体がわからないのも原因ですね。

イメージがしにくい。

皆さんもなんとなく「人食いオオカミが暴れ回る」って感じで捉えていませんか?

今回は、僕自身の曖昧な認識をもうちょっと固めてみたくて、ジェヴォーダンの獣について調べたことを記事にしてみました。

スポンサーリンク

ジェヴォーダンの獣事件とは?

1764年。フランス南部ジェヴォーダン地方で、この伝説的な獣害事件は派生しました。

フランス革命が起こる25年前といえば、時代の感覚がつかみやすいでしょうか。

「ベルばら」のオスカルやアンドレが生まれたのって、この頃かちょっと後かな。

ジェヴォーダンに現れた謎の獣

6月1日。羊飼いの少女が大きな獣に襲われます。

少女は腕を咬まれ、衣服を引き裂かれたものの、幸い獣が牛を怖れて逃走したので、事なきを得たのです。

この辺りはオオカミもよく出現する一帯。

しかし、少女は家族に訴えます。

「オオカミなんかじゃない!子牛ほどもある、頭の大きな獣だった」と。

これは悪夢の序章に過ぎませんでした。

6月30日。内臓を食われた14歳の少女の遺体が森で発見されます。

その後、獣による死者が続出。

未遂事件も頻繁に起こり、のどかなジェヴォーダンは恐怖に怯えます。

想像してみてください。

ヨーロッパはちょうどこの頃、七年戦争が終わったばかりの混乱期。

フランスはイギリスとの覇権争いに敗れ、ダメっぷりが際立っていた時代です。

ジェヴォーダンは田舎で、時々旅人が通りかかる以外は変化もない。

夜は灯りもなく、家族は馬小屋のような家で少ない食べ物を分け合う。

そんな貧しい地域で人間を襲い続ける獣の存在は、暮らしを脅かす悪魔も同様です。

人々は単独行動を避け、棒の先にナイフをくくりつけた武器で武装。

ちょっと頼りないと思いますか?

しかし、当時は反乱を抑えるために、農民に武器を持たせなかったのです。

日本の刀狩りと同じ

そのため被害は多かったのですが、獣もたまにポカをしたらしい。

集団登校みたいにグループで行動していた子供を襲い、ボコられて逃げるなんてこともありました。

生存者の獣に関しての証言も数多い。

それがどうも見知った動物ではなさそうなのです。

普通の動物ではない?正体不明の怪物「ベート」

Wolf eating woman

「オオカミのような」

という証言はよく聞きますが、オオカミを見慣れている住民が「違う」と言っているのです。

他には

「頭部と胸部が大きい」

「ふさふさの尾」

「背中に黒い筋模様」

「たてがみがある」

など。

その襲撃もオオカミらしくありません。

猛獣は普通、首や足を狙うものですが、獣は人の頭に咬みつき、時には切断もしています。

近くに牧牛がいるのに、それを無視して人間を狙うのも謎。

弱い女・子供を選別して襲う狡猾さもある。

やがて獣は「ベート」と呼ばれるようになります。

「bête」は仏語で「怪物」という意味

ジェヴォーダンでは「悪魔か?狼男ではないか?」と噂も飛び交う始末。

神出鬼没で正体不明の凶獣が、ただの動物とは思えなかったのでしょう。

しかし、ジェヴォーダンの情報がやっと届いた首都パリは一笑にふします。

スポンサーリンク

複雑怪奇な背景と事件の終結

「どうせオオカミだろう。悪魔だの狼男だの田舎ッペは無知でしょうがない」

パリではこんな論調が占めたそうです。

でも、放っておけない事情もありました。

フランスの威信をかけた討伐

知らせを聞いた国王ルイ15世の心中を想像してみましょう。

七年戦争で宿敵イギリスに水をあけられたばかりのフランス。

「犬畜生の事件で余を煩わせやがって!」

「悪魔とか、イギリス野郎に笑われるやんけ!」

こんな感じかな~と勝手に思う。

しかし、ベートはヨーロッパ中に伝わっていましたから、見事解決すれば名誉挽回にもなる。

国王はベート討伐のため「竜騎兵」を派遣。

これは強そうな名前だ!

ところが……

颯爽と、竜ではなく馬に乗って現地入りした竜騎兵は、質も馬並みでした。

獣退治もそっちのけで、酒だ!女だ!略奪だ!の愚連隊。

投入された腕利きの狩人も役に立たず、イギリス「プゲラ」、ルイ15世「ぐぬぬ」状態。

そんな中、1765年9月にフランソワ・アントワーヌ中尉が、1.7mの大物オオカミを仕留めます。

「こいつがベートだ!」

Wolf of Chazes

フランソワは称賛され、ルイ15世も面目躍如。

オオカミは剥製にされます。

上の絵で見るとたしかに大物ですが。

事件は終わった……

残念ながらそうはならなかったんです。

ドラマチックすぎる獣の最期

3ヶ月後の12月、再びベートの襲撃が始まりました。

フランソワの討ったオオカミはベートじゃなかった!

これは国王の歓心を買うために、フランソワが用意したオオカミだと疑惑があります。

しかし、ルイ15世は「事件終結」とした手前、今さら「違いました」と言えない。

で、やったのが「またベートが?あ~あ~、聞こえない」。

事件終結を押し通したのです。

ベート復活を無視され、行政に見捨てられたジェヴォーダン。

状況悪化の悪夢に、独自で対処することを迫られます。

それから1年半後の1767年6月。

地元の漁師ジョン・シャステルがついにベートを銃殺したのです。

シャステルは聖母マリアのメダルを溶かして、銀の銃弾をこしらえました。

狼男をやっつける定番アイテムです。

さらに教会で弾丸を清めてもらい、狩りの最中に聖書を読むという、いささか芝居がかったやり方を貫いたそうです。

ベートと対峙したときも聖書を読み上げ、なぜかおとなしく読み終わりを待っていたベートを射殺。

この辺が物語臭いんですよね~。

ジェヴォーダンの獣事件はこうして終わりましたが、当然「ヤラセ疑惑」が噴出します。

スポンサーリンク

獣はハイエナ?自作自演疑惑

ジェヴォーダンの獣には、シャステルの疑惑がセットで語られます。

実はシャステル。ジェヴォーダンでは鼻つまみ者。

息子が変わった動物を飼っていたという話もある。

その動物を調教し、住民を襲わせ、自ら撃ち殺して英雄になる。

オオカミらしくない狩猟や狡猾さ。

ほとんど神がかり的な銃殺の流れ。

調教されていたなら説明がつきます

では、「変わった動物」とはなんだったのか?

シマハイエナ説の矛盾

現在「ハイエナだった」という説が一般的です。

というのも、今は所在不明なのですが、ベートの剥製が博物館にあった頃に調査をして、「シマハイエナらしい」と結論したからです。

シマハイエナの画像

シマハイエナは北アフリカから中東・インドに生息。

体長120cmはちょっと寂しいですが、貪欲で、背中に黒の縞があって、単独行動する点などはベートの特徴と一致します。

当時は生息地とも交易があったので、ヨーロッパに持ち込まれていても不思議じゃない。

オオカミよりも調教しやすい利点もある。

しかし、これで決まりと言いきれないのも事実です。

剥製からハイエナと断定されたジェヴォーダンの獣。

でも、剥製にされたのはフランソワが討った偽ベートだったはず。

シャステルが射殺して襲撃が止んだのだから、真犯人はこの動物です。

その動物の記録がはっきりしない。

そもそも、自作自演だとしても、上手くいきすぎている感も否めません。

シャステルが飼っていたかどうかは別として、ベートはなんだったのか?

スポンサーリンク

獣の正体候補と人間説の可能性

ジェヴォーダンの獣の正体については、今も議論されています。

その候補を一部かいつまんでみると、こんな感じ。

  • 巨大オオカミ
  • オオカミの群れ(複数犯説)
  • ウルフドッグ
  • タスマニアタイガー(1936年に絶滅)
  • クマ
  • ヒヒ

あげくは「未知動物だ」「宇宙人のペットだ」までさまざまです。

ハイエナか、巨大オオカミが妥当なところかなと思う。

ただ僕個人は上には挙げませんでしたが、「人間説」もかなり有力と考えています。

ジェヴォーダンの獣事件は、獣害ではなく殺人だったのかもしれません。

獣は魔術時代のオカルティズムの産物

魔術の画像

ベートの証言記録に、「二本足で歩いた。立った」というのがいくつかあります。

「子供を小脇に抱えて逃げた」とか「村人の槍を引っ張ったとか、人間らしい表現もある。

18世紀といえば、まだ魔術が残る時代。

「獣の皮を被ると、その獣の力を得る」

そんなことが信じられていた時代だったんですよ。

アフリカには豹の毛皮をまとい、殺人を犯す「豹人間」の集団がいたといいます。

江戸川乱歩の「人間豹」とは無関係

ヨーロッパではオオカミの皮を被り、特殊な魔法の薬を体に塗ると、オオカミ男になれるなんて話もあったようです。

だとすれば、ベートもそんな人間だったかもしれない。

あるいはもっと単純に、オオカミを装った強盗、サディスト、反社会主義者の自演騒動ではなかったのでしょうか。

ベートが人間であれば、何年も捕まらなかったことや、動物とは思えない襲撃方法もクリアできます。

ベートの被害はかなり広範囲に渡っています。

被害者も推定で60~200人以上と多い。

中世の地方とはいえ、軍隊組織もあったフランスで、一頭の獣が出せる被害数とは思えません。

犯人が誰であろうと、複数が関わっているはずです。

真相は闇の中ですが、悪魔のような人間の集団による犯行だったんではないでしょうか?

ベートは現在、この地域の観光資源となっています。

多くの被害を与えた正体不明の獣は、観光客を呼ぶ招き猫になったことはたしかですね。

スポンサーリンク

まとめ

おとぎ話のような「ジェヴォーダンの獣事件」は、ずっと僕の心を捉えつづけた物語です。

シャーロック・ホームズの「バスカヴィル家の犬」の史実って感じがします。

事件には疑惑が多く、登場人物みんな胡散臭いのも推理小説っぽいと思いませんか?

ベートは特定できていませんが、「謎の獣」なのも興味がそそられます。

だから正体の推理もいろいろで楽しい。

エンターテインメント要素が詰まった事件だったんですよ。

コメント

  1. ぬえ より:

    飢えてやせ細ったヒグマでは?

  2. より:

    革命派の謀略。被害に耐えかねて国王が地元農民に武装許可させる法令をだせばこっちのもん、その武器で反乱おこして国王を倒せる。よほど被害がひどくないと武装許可はだせないから被害もえげつないくらいにしたんだろう。農民は気の毒だ