化け猫伝説から見える日本のネコ愛

ネコの画像 ペット

ネコは魔性の動物です。

化け猫はいても、化け犬とか化けハムスターは聞いたことがない。

ネコを飼っている人なら、ネコの不思議な行動を一度や二度見ているでしょう。

今は人気のペットですが、昔は「不気味な動物」というイメージが強かったようです。

これは西洋でも中国でもあまり変わりません。

「ネコがうさん臭い」のは世界共通らしい。

だから、日本でも化け猫の言い伝えが多く残っている。

でも、化け猫は飼い主のために戦うって話が多く、絶対悪でもないんです。

ネコにそうした役割を与えたのは、現代に通じる日本のネコ好きと関係がありそうです。

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化け猫と猫又は違うの?

「ネコは長生きすると尾が二股に分かれ、猫又になる」

そんな話、聞いたことありますよね。

うちで昔飼っていたネコも17年くらい生きていたので、「そろそろ猫又になるかな~」と楽しみにしていたのですが、いつまでもアホなネコのままでした。

日本には「猫又」と「化け猫」がいます。

どちらも「妖猫」で、同じ意味合いで使われます。

間違いではないけれど、厳密には少し違うらしい。

猫又は、年を取って妖怪化した仙人みたいなネコ。

化け猫は、なにかの恨みを持ってダークサイドに落ちたネコ。

怪談になるのは化け猫のほうです。

猫又になるには「10年」とか「13年」とか諸説あります。

「そんなに長生きでもない」と思いましたか?

きっと10年も生きるネコは、昔は珍しかったんでしょう。

尻尾の長いネコが猫又になる!?

猫又はそれほど害がありません。

ネコが狙っているスズメをお坊さんが逃がしてやったら、ネコが「残念」と嘆いて驚かせたり。

手拭いを盗んで、それを被って踊ったり。

滑稽話が多い。

猫又が躍った場所が、横浜市泉区の踊場だそうです

それでも猫又、化け猫は忌み嫌われました。

昔も両者は一緒くたにされていたんです。

尾の長いネコは二股に分かれる前に短く切られたりしたそうです。

日本のネコの尾が短いのは、尾の長いネコが妖怪疑惑で処分されて、遺伝子を残せなかったせいだという説もあります。

庶民レベルで怖れられていた。

これは江戸時代のオカルト本『耳袋』が原因のようです。

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鍋島騒動とお松大権現

根岸肥前守鎮衛(ねぎし・ひぜんのかみ・しずもり)。

南町の名奉行でありながら、無類のオカルト好きという変わった人です。

鎮衛は各地の怪談を集め、編纂したのが『耳袋』

そこに『鍋島の化け猫騒動』の話があります。

ざっくりとこんな話。

化け猫怪談の定番「鍋島の化け猫」

肥前国の佐賀藩。
藩主の鍋島光茂が、碁の相手をしていた臣下の龍造寺又七郎に腹を立てて手討ちにした。
又七郎の母親は、その恨みを飼いネコに語って自害する。
母親の血を舐めたネコは化け猫になり、光茂を毎晩苦しませる。
家来の小森半左エ門が化け猫を退治し、騒動が終わった。

これは佐賀藩の鍋島家と、旧藩主の家柄だった龍造寺家が争った史実がモチーフのフィクション。

ネコは濡れ衣です。

でも、芝居で受けた。

この話のドラマも僕は視たことがあります。

人気の怪談のひとつってわけです。

それで「ネコは怖い」と一般的に広まっちゃったんですね。

ネコは俊敏で、音もなく歩き、協調性もない。

夜に光る目は妖しい。

「恨めしや~」させやすかったんでしょう。

舌出して「ハッハッ」やってる犬ではミスキャストです。

鍋島騒動は作り話ですが、徳島県の「お松大権現」は飼い主の恨みを晴らしたネコの実話から建立されたそうですよ。

勧善懲悪「お松のネコ」

阿波の村で不作が続き、庄屋の惣兵衛は富豪に借金をしました。
村を立て直し、借金も返済。
「証文は後で届ける」といわれるが、後になって富豪から「返していない」と因縁をつけられます。
田畑を取り上げられ、惣兵衛は失意の中病死。

妻のお松は奉行所に届けたものの、役人は富豪から賄賂をもらっていて敗訴。
「藩主様に直訴するしかない」
しかし、直訴は死罪になる罪だったので、お松は処刑されてしまいます。
お松の可愛がっていた三毛猫が化け猫になり、富豪と役人の家を滅ぼした、というもの。

実話かどうかは「?」ですが、ありがちな話ではある。

今でも金貸しは強欲、役人は怠慢ですし。

この話から建てられたのが「お松大権現」。

境内はネコにまつわるものだらけ。

お松さん、どこにいったんだ?

完全に、ネコ好きの客集めに走っている感はある。

「受験」「勝負事」にご利益があるんだそうです。

結局「恨み晴らします系」になるのは、日本の特徴かもしれません。

鍋島もお松も、化け猫は飼い主の無念を受け継いだヒーローでもある。

ネコは世界中で忌み嫌われるところがあるのに、日本では怖いながらも正義の代行者だったり、愛嬌のある妖怪だったり、救いがあるのはなぜでしょう?

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怖い化け猫話にもネコ愛がある!

ネコの画像

世界各国をボール型のキャラにした「ポーランドボール」の絵では、日本はたいていネコ耳をつけた姿で描かれます。

Kawaiiの表現なんでしょうが、日本人は誰もが認める世界一の愛猫民族

化け猫伝説からもそれは感じられます。

声なき思いがネコに通じる

飼い猫が化け猫になって無念を晴らす。

これは日本人が大好物の「かたき討ち」です。

忠臣蔵ではなく、必殺仕事人的なかたき討ち。

僕はずっと「イヌは人の声を聞き、ネコは人の心を読む」と思っていました。

命令を忠実に聞くのがイヌで、忠臣蔵はこっちのイメージ。

『長靴をはいたネコ』も、どっちかといえば忠誠心でしょうか。

対して、心に秘めた恨みを聞いてくれるのはネコ。

そんな印象があります。

あまりはっきり物を言わない日本人には、ネコの無言の忖度が嬉しいこともあるんじゃないかな。

日本のネコは町の事情通

「イヌは人に懐き、ネコは町に懐く」というのも僕の持論です。

江戸時代の町並みを想像してみてください。

大通りから中に入ると、そこは裏店。

狭い空間に、小さな長屋がひしめく江戸の迷宮です。

家屋は木造で、開けっ放しも多い。

あちこちに隙間や穴がある。

野良ネコの動線がいくらでもありそう。

ネコはそこで起こる人情劇もよく知っている感じ。

石造りの、閉じたような西洋の家ではネコは入り込めません。

日本の町はネコと人間の居住境界がとても曖昧なんです。

その流れは今も残っている気がします。

当然、その関係は密接になるでしょう。

神秘的なネコが、人の思いや地域の悲劇を汲んで、代わりに復讐を成し遂げるのが化け猫怪談なのです。

ネコが人のために動くという考えも日本の特徴。

ネコ好きだからこそ、化け猫は生まれたのかもしれません。

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まとめ

化け猫は、権力者をやっつける役柄になりがちです。

弱者にとって、強者を武力で倒すことは難しい。

超常的な霊力で、精神を追い詰めるという展開が受けるのでしょう。

とすれば、神秘的なネコのお化けが生み出されたのもうなずけます。

身分制度の厳しい時代、そんなルサンチマンを身近なネコに託したのが化け猫だと思うのです。

そういえば昔、「なめ猫」というネコの不良みたいなのが流行りましたよね。

ネコは社会に反する、自由な存在の象徴ともいえそうです。

日本でネコが愛されるのは、それだけ日本人が不自由さを感じてるってことなんでしょうかね?

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