1999年に『ヴァージン・スーサイズ』という映画がありました。
見た人もいるかもですね。
この原作本を読んだのですが、
邦題が『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』というものでした。
意味深なタイトルに興味を惹かれ、つい買ってしまったのです。
ちょっと癖のある小説で、読みにくさはありましたが、粉っぽい感じが妙に生々しくて不思議な気分になる小説でした。
他人の家に行ったとき、その家に充満している甘ったるい化粧の臭いに、咳き込みたくなるような気分といえばわかってもらえるでしょうか?
小説の感想は置いておくとして、僕が気になったのは『ヘビトンボの季節』という部分。
ヘビトンボは名前からもわかるように、とても可愛げのない虫です。
ヘビトンボの季節?あの不気味な虫が大量発生するの?
アメリカのほうではそんなホラーな季節があるんでしょうか?
日本全国にもいるヘビトンボですし、日本でもあるの?
ふと気になったもので、ヘビトンボについて調べちゃいました。
ヘビトンボとは?本当に大量発生するのか?
最初にヘビトンボの解説を少々。
知らない人も多いと思うので。
ヘビトンボはカゲロウの仲間ですが、「儚い」感じは微塵もありません。
黄色い体(4cmほど)に大きなアゴの口を持ち、広げると10cmにもなる半透明の大きな4枚の羽。
ヘビトンボ種は日本で十種類ほど確認され、黒っぽいのとかもいます。
夜行性で、よく咬みますが毒はありません。
首のように見える部分が長く、ヘビトンボというネーミングは秀逸です。
薄気味悪くありながら、どこかカッコいい響きも感じませんか?
ヘビトンボの幼虫は日本では「孫太郎虫」と呼ばれています。
水のきれいな川の上流中流の水中にいて、姿がムカデのようなので「川ムカデ」の異名もある。
昔は子供の癇の薬にされたり、炙って酒肴にもされました。
なぜ食おうと思ったんでしょうか?
孫太郎虫は水中で3~4年過ごし、陸に上がって蛹になり、ヘビトンボへと羽化するのです。
その蛹がまたグロテスクで、大きなアゴもちゃんとある怪獣のようなフォルム。
レッドキングみたいな蛹。
その状態でも少し動けて、蛹に咬まれることもある。
どこまでもオラついた昆虫です。
成虫は一週間ほどしか生きないのですが、カゲロウのような弱々しさは本当にない。
アメリカのヘビトンボ・ドブソンフライ
で、気になっていた「ヘビトンボの季節」。
とりあえずネット百科辞典だなと見ると……いきなり衝撃の事実が!
なんとヘビトンボの分布は沖縄を除く日本全土と、中国、韓国、台湾、タイとのこと。
小説の舞台はアメリカなのにヘビトンボがいない?
さらに調べると、それが間違いとわかりました。
日本で見られるヘビトンボはアジアだけですが、ヘビトンボ種はアメリカにもちゃんといます。
こんなの。
さすがアメリカ産はオラつき度もスゴイ‼
その名も『ドブソンフライ』。
その幼虫は「Hellgrammite――地獄の住人」と呼ばれています。
孫太郎虫のほうがずっと愛情を感じますよね。
幼虫は釣り餌として高価で取引されるんだって
ただ、大量発生についてはよくわかりませんでした。
そういう事例が見つけられなかったんですよ。
交配のために集団を形成することはあるようですが、小説にあった街を覆うほどの大発生があるのかははっきりしなかったのです。
もしかしたらカゲロウやユスリカを編集者がヘビトンボに改変したのかもしれません。
カゲロウなどが時に積もるほど大発生することはよく知られています。
「カゲロウの季節」より「ヘビトンボの季節」のほうがインパクトあるし、少なくとも僕はそれで買ってしまったのだから、編集の勝利です。
ドブソンフライは日本のヘビトンボの2倍くらいあります。
大量発生したらもう地獄絵図になりそう……
自然破壊でヘビトンボは減った!?
ところで、日本のヘビトンボは大量発生しないのでしょうか?
ドブソンフライほどでなくても、かなりホラーですよね。
実を言えばヘビトンボは最近あまり見られなくなった昆虫で、まとまって見ることなどないんです。
それは幼虫の生態に関係があります。
孫太郎虫はきれいな清流でないと生きられません。
肉食の孫太郎虫の餌となる水生生物も同様です。
日本ではそんな川が減っており、ヘビトンボも珍しくなっているのです。
ちなみにヘビトンボの発生時期は6~8月です
可愛げのないヘビトンボですが、自然がきれいかを判じるリトマス紙のような虫なんですね。
ヘビトンボを見たら、美しい自然が残っていると考えてください。
でも、最近中国で発見された新種のヘビトンボを見たら、考えたくなくなるかもしれませんが。
もはや怪獣‼中国で巨大ヘビトンボ発見!
2014年、中国四川省で羽を広げると21cmもある巨大ヘビトンボが見つかりました。
この迫力!
僕は最初ネットで見たとき、コラ画像だと思いました。
部屋の網戸にペタッととまってたら、気を失う自信がある。
ネットでも「ナウシカに出てくる虫だ」との意見が続出。
こんな巨大昆虫が最近まで見つかっていなかったのだから驚きです。
恐るべしチャイナ。
蛾やナナフシでもっと大きい昆虫もいますが、このヘビトンボのほうがパンチが効いています。
ただ、今まで見つからなかったというわけではなく、四川やベトナムにいる巨大ヘビトンボは昔から知られており、その大物の個体が見つかったという話だそうです。
これまで世界最大の水生昆虫は南米の翼開長19cmのイトトンボでしたが、この個体に抜かれたわけです。
しかし、改めて見ると太古の昆虫って感じがしますよね。
カゲロウやトンボは昆虫ではクラシックな種なのですが、ヘビトンボは特にジュラ紀の雰囲気を漂わせているように思えます。
ナウシカに出てきそうなのも、それが理由でしょう。
地味だけど、迫力満点のヘビトンボ。
可愛くはないけれど、夏の「ヘビトンボの季節」には親しんでみてはいかがですか?
まとめ
小説の疑問からヘビトンボを調べてみましたが、ちょっと怖そうに見えて、一周回って逆にカッコよくも見えてきました。
ヤンチャなカゲロウという感じでしょうか。
そんなヘビトンボは幼虫の孫太郎虫を含め、日本人には見慣れた虫だったようです。
現在はヘビトンボの生息地も減り、大発生するどころかなかなか見られなくなっている。
これはホタルと似たところがあります。
ホタルの幼虫もきれいな川でしか暮らせません。
ホタルを復活させるプロジェクトが日本中で行われていますが、それはヘビトンボの生活環境も改善されると期待していいかもしれませんね。
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