あなたなしでは生きてゆけない。
メロドラマみたいな台詞ですが、僕は「ニワトリ」に言いたい。
唐揚げ……焼き鳥……茶碗蒸し……TKG……。
僕にとって、なくなると困るものばかりです。
肉も卵も使い道山盛りのニワトリ。
これほど世話になっている動物はいませんよ。
カーネル・サ○ダースも、鳥○族の社長さんも納得してくれるはず。
すっかり家畜となったニワトリも、昔は野生の鳥でした。
ご先祖様はセキショクヤケイ(赤色野鶏)。
野鶏……文字通り「野生のニワトリ」ですよ。
東南アジアのジャングルに、今でも生息しています。
でも、家畜ニワトリとは違いもある。
セキショクヤケイは、どんな道を経て優良家畜ニワトリになったのでしょうか?
セキショクヤケイはどんな鳥?
いわゆる「ニワトリ」は、
一般的な家禽の「白いニワトリ」、
ややワイルドな「地鶏」と、野生の「野鶏」がいます。
ニワトリは世界で200億羽飼われているという完全家畜。
放し飼いとか、逃げて野良になったニワトリは、野鶏ではありません。
食用や闘鶏に利用される地鶏も、家畜になります。
「野鶏」とは、100%野生のニワトリ。
「人間の世話にはならぬ!」という自然界のニワトリで、世界に4種しかいない。
セキショクヤケイはそのひとつです。
他は
「ハイイロヤケイ」
「セイロンヤケイ」
「アオエリヤケイ」
で、元々ユーラシア大陸に広く分布していましたが、
現在はどの種も中国南部、インド、東南アジアにしかいません。
ニワトリは「キジ科」なので、野鶏はどれもキジとニワトリの中間種のような外観をしています。
ニワトリとセキショクヤケイ
セキショクヤケイはニワトリの祖先と考えられています。
そう結論したのは、医師で自然哲学者のエラズマス・ダーウィン。
あのチャールズ・ダーウィンのお祖父さんです。
さすがダーウィン一族。
映像でもわかるように、セキショクヤケイの見た目はニワトリ。
オスはトサカも肉垂もある。
鳴き声もコケコッコー。
今なら「ニワトリの親戚だろう」と誰でも思うでしょう。
でも、エズラマスの時代は、動物が進化して変化するなんて考えられていなかった。
孫のチャールズが『種の起源』を出す前に気づいたのだからすごい。
慧眼といえるでしょう。
実は「進化」という概念も、エズラマスが発案者です
話を戻します。
色合いは派手で、キジを思わせます。
背中が赤茶色だからセキショクヤケイ(赤色野鶏)。
オスとメスの見た目に大きく差があるのが、ニワトリとの違いですね。
メタリックな羽毛が強そうで、カッコいい。
実際、縄張り意識が強く、闘争心もある。
このセキショクヤケイが、あの平和ボケしたようなニワトリになるわけです。
ずいぶん更生したというか、漂白されたというか……。
この変化は、数千年ほどかけて行われたようです。
セキショクヤケイ家畜化の謎
人はなぜセキショクヤケイを家畜にしたのか?
「そりゃぁ肉が美味かったからでしょう」
鶏肉好きな僕はそう思うのだが、どうも違うらしい。
朝一番に鳴く習性が、神聖に見られたからといいます。
太陽(古代の神)の登場、日の出を告げる鳥ってことですね。
ニワトリは時計代わりに飼われたのです。
家畜化された時代と場所
家禽化がいつ始まったのかは諸説あります。
紀元前8000~2000年のどこか。
牛やヤギなどは家畜歴1万年前後なので、
たぶん同じくらいと僕は思うのです。
野鶏もニワトリも雑食。
農業が始まって、雑穀でも育つ野鶏は都合がよかったのでしょう。
現在のタイ付近で飼われ始めたと見られます。
この事実を突きとめたのは、我が国の皇族・秋篠宮様。
多種のニワトリのDNAを調べ、発祥がタイと突きとめられたのです。
ナマズの専門家として高名な秋篠宮様ですが、ニワトリも研究されていたんですね。
東南アジアから中国を経て、日本には約2200年前に持ち込まれました。
ただ、すべてが判明したわけではありません。
タイ近辺が始まりなのは、他の研究者も支持しています。
しかし、ニワトリ種はとても複雑に絡み合っている。
「最初の一羽」を見つけるのはほぼ不可能。
これが謎を深めているのです。
ニワトリとは違いすぎる野鶏
DNAなどの調査で、ニワトリの祖先がセキショクヤケイなのは確実です。
ところが、ニワトリは別の「ハイイロヤケイ」のDNAも持っています。
つまり、交雑した。
ここでまた疑問。
自然に交雑したのか、人間が掛け合わせたのか、ということ。
そして、この交雑によりニワトリ化したのか?です。
自然交雑だとすれば、赤灰ヤケイがいたことになり、それがニワトリの直接の祖先となります。
では、野生の赤灰ヤケイはどこに消えたのでしょう?
また、卵の問題もある。
野鶏の産卵数は多くても年に十数個。
ニワトリは無精卵を年300は産めます。
収穫を増やすために、人間が品種改良したのはわかります。
でも、野鶏と家畜ニワトリはずいぶん違う。
セキショクヤケイは懐かないし、攻撃的でもある。
樹上ぐらいまでなら飛ぶこともできます。
野鶏が1万年足らずでニワトリになれたとは思えないのです。
野鶏は自分の意志で家畜になった?
どの時点でセキショクヤケイが飼われだし、
どこから白いニワトリになったのかは今も不明。
肉が美味い!卵が美味い!と改良した結果としか言えません。
それにしても、ずいぶん人(鳥?)が変わっちゃった。
これは僕の想像ですが、
野鶏と人の生活リズムが同じだった
ことが理由ではないでしょうか。
セキショクヤケイはジャングル暮らしで、それほど移動もしません。
飛ぶのも上手くはないですし、狭い範囲で生きる動物です。
農業が興り、人も一箇所に定住するようになった。
どちらも日の出で起きて、日の入りで眠る。
人といれば、穀物の餌をもらえる。
セキショクヤケイにはストレスのない生活です。
人と暮らすのが居心地よかったので、野良を捨てて家畜になった。
それは身の危険がない暮らし。
卵を狙う獣もいないから、産卵もしやすくなる。
人間には食われちゃうんですが
そんなふうに、野鶏のほうも自ら「良い家禽」となる方向に進化したのかもしれません。
ニワトリはあまりにも優良です。
改良の努力の他に、ニワトリの意志みたいなピースがないと、野鶏がニワトリになったパズルが完成しない気がするのです。
まとめ
セキショクヤケイが交雑や改良でニワトリになった。
進化論では一言で済みます。
しかし、その過程は紆余曲折。
ニワトリの種類が多いのも、進化の道がたくさんあったからでしょう。
現在の野鶏も100%野生なのかわかっていません。
「純野鶏はもういない」という学者もいます。
野鶏が地鶏などと交わり、純血でないかもしれないのです。
僕らには身近なニワトリ。
その始まりはなかなかミステリーなのです。
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