ヒグマ事件簿:「風不死岳ヒグマ事件」山菜採りが招いた悲劇

ヒグマの画像 陸生動物

昭和51年。

北海道の風不死(ふっぷし)岳で、ヒグマに因り5人の死傷者が出ました。

ヒグマの事件と言えば――

「三毛別ヒグマ事件」
「福岡大ワンゲル部事件」
「石狩幌新事件」……など。

現代でも伝説的に伝えられる事件は多い。

それらに比べ、風不死岳の件は、あまり語られません。

しかし、平成28年に起こった本州最大の獣害「十和利山クマ襲撃事件」とあまりにも類似していた事件なのです。

風不死岳の悲劇がもっと知られていたら、その後の十和利山も防げたかもしれません。

そう考えれば、知っておくべき事件の一つではないでしょうか。

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風不死岳ヒグマ事件の流れ

北海道の空の玄関口・千歳空港。

その西側に景勝地・支笏湖があります。

湖の南にそびえるのが標高1102mの風不死岳。

「風不死」とはダークな字面ですが、「トドマツのある場所」というアイヌ語の「フップウシ」に漢字を当てたもの。

以前はトドマツに覆われた山でした。

昭和29年のいわゆる「洞爺丸台風」で松はほとんど倒れて、景観はずいぶん変わってしまったようです。

それでも多くのハイカーが支笏湖を望む美景を求めて登頂しています。

この風不死岳が、ヒグマがよく出る山なのです。

最初の襲撃

昭和51年の6月4日の昼下がり。

風不死岳でタケノコを採っていた50代の男性が、背後からヒグマに襲われます。

男性はナタで反撃。

一緒に山菜採りしていた人も駆けつけ、ヒグマをなんとか撃退。

ケガは負ったものの、大事に至らずに済みました。

ちなみに、ここでいう「タケノコ」とは「ネマガリダケ」のこと。

細くて、小さい、千島笹のタケノコ。

北海道でタケノコといえばネマガリダケ。

家庭でもよく食べられます。

煮物やおでんに入れます

道産子の僕も、一般的な孟宗竹のタケノコを東京で過ごしていた学生時代に初めて食べたときは「内地(本州)のタケノコでっけぇ~な」と思ったものです。

このネマガリダケが5~6月に採れるため、この時期は入山する人が増える。

しかも、ネマガリダケはクマも好物なのです。

ブッキングする確率は高い。

現地の警察署は、すぐ猟友会に連絡します。

「人を襲撃したクマは、再び人を襲う

そこはヒグマの生態も知り尽くしている道警。

対応はスピーディーです。

その予測はすぐに現実となりました。

※支笏湖の名所「苔の洞門」。
 ヒグマもよく見られ、立入禁止になることも多い。

第二の襲撃

最初の襲撃があった翌5日。

ヒグマはまた動きます。

襲われたのはやはり山菜採りのグループ。

50代の男性がヒグマと出くわします。

男性はゆっくりと後退。

「背を向けない。走って逃走しない」

ヒグマ対策を守った行動でした。

ところが、つまづいて転倒。

さすがに足元まで注意する余裕はなかったんでしょう。

すかさず足に咬みつくヒグマ。

男性は蹴りを入れて抵抗。

仲間の助けもあり、全治2ヶ月の重傷を負いますが、命は助かりました。

風不死岳で立て続けに起こった襲撃事件。

「ヒグマは完全に人を狙っている!」

もう予断を許さない状況です。

2人の命が奪われる!

6月の9日。

やはりネマガリダケを採りに山へ行ったグループがいました。

そのグループは11人といわれています。

手分けしてタケノコを採り、そろそろ下山しようかという頃。

メンバーのうち3人が戻ってきません。

探しに行ったところ――

倒れている一人を発見。

見れば、かなり深い傷を負っている。

「ヒグマだ!」とすぐ気づいたでしょう。

近くの店に駆け込み、救助を要請します。

スマホのない時代です

通報で駆けつけた警察官と猟友会のハンターも捜索に加わる。

そして、少し離れた場所で無残な遺体を発見します。

後頭部と両足を食いちぎられていました。

その遺体を回収しようとしているところにヒグマが出現。

でも、これはヒグマの失敗でした。

捜索隊には猟友会もいたのです。

クマはその場で射殺。

2歳半のメスで、体長170㎝、体重200㎏。

その牙には人の頭髪が絡まっていたといいます。

後に、もう一人の遺体も見つかります。

この日、二人を殺害し、一人に傷を負わせたのです。

加害熊の駆除で事件は終結したものの、死者2名負傷者3名。

被害は小さくありません。

被害者のうちの3人は9日の入山者。

この時点で4日と5日の襲撃事件はある程度広まっていたはずです。

でも、山菜採りは決行された。

実はネマガリダケ、けっこういい値段で売れる。

ヒグマ騒動を知っていても、山菜採りが後を絶たないのはそのせい。

「自分たちは大丈夫」

そう高をくくって、タケノコ採りをしてしまった。

その油断や楽観が、不幸を呼び込んだ事件だったといえます。

しかし、この教訓はいつしか忘れられてしまいます。

風不死岳の悲劇から40年。

秋田県で同じような惨事が起きてしまうのです。

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犠牲者8人の獣害『十和利山事件』

平成28年の5~6月にかけて起こった「十和利山熊事件」

複数のツキノワグマにより、死者4人負傷者4人を出しました。

ここでは詳細は省きますが、日本で3番目、本州で起こった最大の獣害事件とされています。

加害熊は最低でも5頭いたと考えられています

この事件は風不死岳事件とよく似ています。

山菜採りは慎重に

十和利山でも襲われたのは山菜採り客です。

当地でもネマガリダケがよく採れます。

さらに、クマの襲撃があってすぐ入山規制がされたにも関わらず、その後も山菜採りに入って被害を広げてしまいました。

状況は風不死岳と同じ。

「人を襲うクマがいるらしいが、大丈夫だろう」

「カネになる山菜が欲しい。背に腹は代えられない」

その結果です。

「自業自得でしょ」と責めるのは容易い。

でも、僕らだって運よく無事でいるだけで、似たように「自分は大丈夫」と危険を承知で行動することはよくある。

まあ、「事故に遭うかも」「雷に打たれるかも」とビビッていたら、何もできなくなりますしね。

臆病すぎるのも現実的ではありません。

しかし、クマの警報が出ているなら近づかないのが賢明でしょう。

山菜採りが家計を助けているのはわかります。

リスク覚悟で山に行くのも理解できる。

それでも、クマの被害は連続しやすいもの。

これはヒグマもツキノワグマも一緒。

「人を襲ったクマ」がいるなら、その場所では高確率で不運な遭遇があると考えたほうがいい。

注意を無視して、クマに食われるなんて、避けたすぎる死に方です。

無残にヤラれるうえ、死後も世間にバカにされかねない。

クマに関しては「君子危うきに近寄らず」がいいと思いますよ。

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まとめ

山の多い日本は、クマにも遭いやすい国と言えるでしょう。

実際、クマ被害も頻繁です。

だから、過去から学び、クマ対策はしておくことが大事です。

風不死岳事件と十和利山事件はそっくり。

過去の反省が活かされていなかったわけです。

町と違い、山中は誰も守ってくれません。

自分の身は自分で守る。

危機意識を持ち、臆病なくらいでちょうどいいかもしれません。

安全を意識してこそ、山菜採りやレジャーが楽しめるというものですから。

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