「九尾の狐を封印している殺生石が割れた!」
2022年3月、ちょっと話題になりました。
九尾の狐は最強で最悪とされる妖怪。
ザコ妖怪とは格の違うラスボス級に描かれることも多い。
国を亡ぼすような悪さをして、殺生石によって封印されていました。
その石が割れたのです。
かなりヤバいんじゃないの?
むろん、これは伝説。
これで「日本に大災厄が!」と慌てた人もいないでしょう。
だけど、不気味な感じはちょっとする。
僕も九尾の狐の逸話は知っていました。
でも、あまり詳しくは知らなかった。
フィクションでもやたら持ち上げられる「九尾の狐」。
その印象が強くて、実像は意外と知られていない気がします。
殺生石の騒動を機に、調べたことをまとめてみました。
九尾の狐には多少の誤解もあるようなのです。
九尾の狐の真実
日本で知られているのは平安時代の「玉藻前(たまものまえ)」の話です。
「マリモ女子」みたいな名前ですね。
とても美人で、頭も良い。
九尾がこの女性に化けて、都を混乱に陥れたという流れ。
といっても、玉藻前は架空の人物で、
モデルは実在した「藤原得子(ふじわらのとくし)」。
それほど良家の出でもないのに、鳥羽上皇の寵愛を受けました。
この得子が皇位継承の裏で暗躍したといわれ、九尾の狐と結びついたのです。
男を操り国を亡ぼす!
今から900年ほど前のお話。
鳥羽上皇が実権を握っていました。
子の崇徳(すとく)に皇位を譲り、自分はその上で権力を奮っていたのです。
ちなみに、崇徳天皇はその後「保元の乱」を起こした罪で四国へ流刑。
死して怨霊となり、京に数々の災いを起こしたとか。
藤原道真、平将門、崇徳が日本三大怨霊
話を戻して、鳥羽上皇。
女官だった玉藻前に目をつけます。
美貌のうえに知識もある若い女。
銀座の高級クラブのNo,1ホステスに入れ込むようにのめり込んでしまいます。
側においてイチャイチャやるわけですが、どうも不調が続く。
ついに寝込み、医者も匙を投げる重篤状態。
そこに現れた陰陽師・安倍泰成。
「玉藻前が呪いかけてるぞ」
呪文ムニャムニャやると、玉藻前が正体を現す。
九本の尾がある妖狐。
「見破られたか~」と逃亡してしまったのです。
日が経ち、妖狐が那須野(現在の栃木県那須郡)で悪行している知らせがもたらされる。
勇猛な武者たちに、泰成を軍師とした討伐隊を結成。
苦戦しつつもよく対策を練り、妖狐を追い詰めてゆきます。
九尾の狐もついに絶命。
大きな石へ姿を変えたのです。
その石が毒気を出し、近づく者さえ命を落とすというもの。
「人を殺す石。殺生石だ」となった。
九尾のチカラは、その死後も衰えていなかったんです。
悪女に化ける?実は神獣?
九尾の狐は中国が発祥。
特徴は
・尾は9本で、狐のような姿
・赤ん坊のような鳴き声
・人間を食べる
・この獣を食べると毒を退けられる
ですが、「悪い妖狐」ではなく「瑞獣」。
太平の世に現れる、縁起のいい神獣という設定。
しかし、強いパワーは負に向かうこともあります。
悪政の時代には「災い」と転じる。
九尾の狐は美女に化け、権力者を虜にしてきました。
九尾だったとされるのは
殷王朝・紂王の妃「妲己(だっき)」
西周の幽王の后「褒姒(ほうじ)」
インド・班足(はんそく)太子の妻「華陽夫人」
そして玉藻前こと藤原得子
どれも暴君を裏で操っていた、歴史に名を刻む悪女です。
それぞれに面白いエピソードがあるのですが、書ききれないので省略。
興味のある方はご自分で調べてみてください。
殺生石で封印したわけじゃない?
最初の妲己が紀元前1100年頃なので、九尾は3000年ほど前から悪さしていた。
そうして辿り着いた日本の地で、ついに討たれたわけです。
逸話からもわかりますが、先日割れた殺生石が封印していたのではなく、殺生石自体が九尾の狐なので、大妖怪が蘇ることはないでしょう。
むしろ、石の割れたのは、九尾のチカラが弱まったと考えるのがよさそうです。
那須の殺生石は温泉地にあります。
付近では火山ガスが噴出していて、それが「毒を出す」となった。
だから、近くまでは行かないほうがいい。
人を毒殺する物騒な石なんてありません。
実は数年前からひびは確認されていたので、
今回自然に割れただけという見解。
殺生石の謎はわかりました。
でも、どうして九尾の狐は女に化ける設定なのでしょう?
九尾の狐と動物の狐
男を手玉に取り、自らの欲を満たす魔性の女。
日本では「女狐」と呼ばれます。
どうも狐は「悪い」と「女」のイメージがありますよね。
英語でも「Vixen/ヴィクセン(メスの狐)」には、「意地の悪い女」の意味がある。
世界共通で印象が悪い。
僕の住む北海道では、狐は珍しくありません。
ちょっと山の方に行けば、頻繁に見かけるし、「可愛いなあ」とも思う。
なぜ狐はここまで悪く言われるのか不思議です。
狐はずる賢いのか?
「ずる賢い狐」というのは鉄板のイメージ。
紀元前のイソップの時代から受け継がれています。
「頭が良く、他者を出し抜き、利益を独り占めする、卑怯者」
とはいえ、大物感があるでもない小悪党といった役回り。
でも、肉食獣はどれもしたたかに生きています。
狐だけが悪く言われる筋合いはありません。
この件は、狐の中途半端さに原因があると思う。
イヌ科の狐は肉食ですが、クマやオオカミほど強くありません。
主食は小動物で、強者にへつらい弱者をいたぶっているように見えます。
また、狐は狩りの際、けっこうジャンプするんですよ。
それが遊びでネズミやウサギを嬲っているみたいなのです。
楽な家畜を襲うこともあるし、屍肉や昆虫も食べます。
この辺がハイエナのように卑屈な印象を与えるのです。
ハイエナも別段弱くはないんですが
狐は好奇心も強く、知能は犬より高いと思われます。
狩りでも獲物の動きを知り、予測して動いているような節がある。
飼い犬程度の大きさの狐が、他の肉食獣と競合するには、こうした知略はどうしても必要だったのでしょう。
人間の行動もよく見ています。
「ずる賢い」「人を化かす」は、観察力の鋭さに起因していそうです。
女に化ける設定はどこから?
顔が細長く、ツリ目であることも心象が悪い。
肉食獣はだいたいツリ目気味なのですが、細い顔でツリが際立っている気もします。
よく見ると、そこまで極端なツリ目でもないんだけど……。
そこが悪女的ともいえそうです。
細面で、やや上向きの涼しい流し目は、美形の特徴ですからね。
可愛い系じゃなく、セクシー系の。
体型もしなやかで、男を惑わす女性のよう。
狐のあの曲線美は野郎には出せない艶めかしさですよ。
中国で誕生した瑞獣「九尾」は狐のような妖怪。
狐だから、妖艶な女性に化けて、為政者(男)を操るという発想になるのでしょう。
なんか「狐は女に化け、狸はオッさんに化ける」ってイメージが強い。
自分で権力を握って、独裁者にならないところが、知能犯な狐らしいやり方です。
ただ、九尾が関わった悪政の後は、その反省を活かして国も立ち直ります。
瑞獣・九尾の狐は、暴君の世を終わらせるための荒療治をしているのかもしれませんね。
まとめ
自分は頂点に立たず、影で動く女性となる九尾の狐。
最悪妖怪とされますが、本当は縁起のいい神獣でした。
狐に対する誤解と印象で、悪い魔物へと変わったようです。
なんだかんだ言っても、男は美人に弱い。
そんな男の弱さを顕著にする存在といえるでしょうか。
もちろん、これは作り話。
歴代の悪女を、九尾に例えただけです。
悪女が持つ権力への執着とか、バイタリティー、魔性などが、それだけ人智を超えて受け取られる証拠ともいえそうですね。
それでも男にとって、悪女の魅力には抗えないらしい。
男性諸兄は気をつけましょう。
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