日本全国にサムライアリという蟻がいます。
名前からして「日本らしい」アリですよね。
勇ましそう!
あのヒアリの天敵になるともいわれ、
日本を害虫から防いでくれる頼もしい「侍」といえそうです。
ところがサムライアリは、生態がかなりえげつない。
とにかく非道です。
武士道とは程遠い。
なんと他のアリを奴隷にし、自らはなにもしない。
女王も、働きアリもすべてが外道!
僕らが思う「侍」とはずいぶん違う。
その生態はアリとして異端です。
「なぜサムライなのか?」「本当にヒアリより強いのか?」も解説します。
サムライアリとは?
サムライアリは北海道から沖縄で、普通に見られるアリです。
大きさは5mmほど。
女王アリでも7mm程度。
一般的なクロアリ(クロヤマアリ)と見た目はほぼ同じです。
下の動画でも、違いはまったくわかりません。
牙のような大顎がクロヤマアリより大きく、鎌状になっているのが違い。
クロヤマアリの牙は三角
捕まえて、よく見ればすぐにわかるでしょう。
サムライアリは動かない!
このサムライアリは働かないアリです。
「アリって働き者の代名詞でしょ」
みんなそう思っているはず。
イソップ童話でも「アリ=働き者」ですもんね。
ですが、サムライアリは働きません。
動画ではキビキビ動いていますが、あれも働かないための一時的な作業。
では、食料の調達や幼虫の世話はどうしているのか?
誰かにやってもらう。
僕もメイドさんとかに仕事をしてもらいたい。
でも、アリの世界にそんな商売はありません。
サムライアリはとんでもない暴挙に走りました。
他のアリを奴隷にするのです。
侵略!強奪!サムライアリの生き様
ご存知のように、アリは社会性昆虫。
女王が絶対君主で、仲間のために身を粉にして働くもの。
この感じは日本という国に似ていますね。
だからアリは真面目に見える。
サムライアリはそんな習性を逆に利用するのです。
巣を乗っ取る女王アリ
普通、アリは女王が一匹で独立し、新たなコロニーを作ります。
女王が子孫を増やし、アリの王国はどんどん大規模になります。
サムライアリの若き女王も一匹からスタート。
しかし、巣は作りません。
クロヤマアリなどの巣を奪うのです。
もちろんクロヤマアリにとっては侵入した敵アリ。
攻撃を加えます。
サムライアリの女王はこの試練を乗り越え、
その巣の女王の産室までたどり着きます。
そして女王を殺してしまう。
それだけでは単なる侵略者。
人望のない支配者に、民(アリ)は懐きません。
ここから女王は巧妙な手段を使います。
偽りの女王は匂いで洗脳する
殺害と同時に、サムライアリ女王は、
旧女王のワックスを自分の体につけます。
その巣のアリだけが持つ、
「お袋の味」みたいなコロニー特有フェロモン
だと思えばいい。
その匂いを持つアリは、仲間なのです。
旧女王のワックスを受け継いだアリが、新女王になる。
成り替わりにも程があります。
でも同類ワックスを身にまとい、「私が女王よ!」と居直られたら……。
働きアリたちは、
「えっ?女王なん?……この匂い、女王様だし。女王やなぁ」
と納得してしまう。
多少の混乱はあっても、新女王の忠実な部下となるわけです。
乗っ取られたこともわからず、
働きアリたちはせっせと女王の世話をし、
女王の産んだサムライアリの幼虫を育てる奴隷と化すんですね。
やがて巣にはサムライアリが増える。
逆に奴隷となったアリは子孫も途絶え、減ってゆきます。
働き手を失っても、サムライアリは働こうとしません。
新しい奴隷を補充するのです。
サムライアリの奴隷狩り
サムライアリの巣はニートばかり。
奴隷が減るのは死活問題。
働き手を失うだけではありません。
サムライアリは大きな顎を持った戦士のくせに、固形物を食べられない。
食料は奴隷アリが咀嚼したものを、口移しでもらわないとならないのです。
とことん他力本願だな
そこで行うのが奴隷狩りです。
奴隷狩りは夏の炎天下に決行されます。
隊列を組み、素早く行軍するサムライアリ部隊。
狙うのはクロヤマアリなど他のアリの巣です。
攻め込んで、サナギや幼虫を強奪。
役立つのは鎌状の顎。
マジックハンドのように、アリを捕まえやすい形。
後ろから羽交い絞めして連れ去られる様相です。
そして新たな奴隷とするのです。
このときも使うのはワックス。
サムライアリは自分らのワックスをほとんど出さない代わりに、他アリのワックスを体に塗りこみ、幼虫を「俺たちは仲間だよ」と騙してしまう。
純真なアリは「同類の匂いだ~」とコロリです。
洗脳しやすい幼虫を狙うところが、また卑劣ですよね。
成虫を誘拐することもあります
どうして「侍」アリなの?
しかも奴隷狩りでは巣を襲っても、女王アリは殺しません。
なぜなら、女王がいればまた増えるから。
絶滅させずに、何度も奴隷狩りされるコロニーもある。
「生かさず殺さず、長期間搾り取る」
たしかに封建時代の武士と農民の関係に似ているような……。
サムライアリの名前の由来は、その通りなのだそうです。
「民を苦しめるだけで、ろくに仕事しない武家のようだ」というわけ。
奴隷狩りをするアリはいくつか知られていますが、それらは少しは仕事もする。
まったく働かないのはサムライアリ種だけ。
「侍ってそんなキャラでしたっけ?」と言いたくなる。
むしろ侍をこき使っていた「平安貴族アリ」って気もするんですが……。
世界に誇るジャパニーズウォリアーも、ずいぶんな扱いです。
このサムライアリが、危険な外来アリの天敵となり、
侵略を防いでくれるのではないかと期待されています。
「防人」になれるなら侍の面目躍如。
実際に防衛になるのでしょうか?
サムライアリVSヒアリ 勝者は?
日本に侵入する危険な虫たち。
固有の生き物を殺し、生態系を破壊する。
特にアリは繁殖力も強く、
一度広まってしまえば根絶は不可能でしょう。
ヒアリの危険はニュースにもなっています。
しかし、サムライアリがヒアリを奴隷化し、
繁殖を絶ってくれれば日本は安泰。
サムライの名も傷つきません。
ヒアリ駆除に効果はない?
ヒアリは「咬まれると火がついたように痛い」のが名の由来。
性格はおとなしいのですが、「やるときはやる」炎の戦士です。
サムライアリも大きな顎を持つアリ。
ヒアリにも対抗できそう。
ただ、サムライアリでヒアリの駆除ができるかは微妙だと思います。
サムライアリの大顎(牙)は捕獲用で、特に強くはありません。
日本にはクロヤマアリなど温和なアリも多いため、
厄介なヒアリを奴隷にする必要もないでしょう。
サムライアリがヒアリの天敵といえるかわからない。
防人としても役立ちそうにないですね。
やっぱり侍って、日本だけのお山の大将なんでしょうか?
まとめ
サムライアリは日本で珍しくない。
夏に、素早く行軍するクロアリがいたら、
サムライアリの奴隷狩りかもしれません。
僕らの足元で、シビアな侵略が進行しているなんて、面白いですよね。
よく観察してみることです。
子供なら夏休みの自由研究にもいいでしょう。
僕なら頭の中でワーグナーの『ワルキューレの騎行』かなんか流しながら、映画を見るように楽しむかな。
サムライアリがなぜこんなアリになったかは不明です。
進化のどこかで「働いたら負け」と思ったんでしょうか?
なんにしても、アリらしくない進化を遂げたものです。
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