一番強い動物はなんだろう?
誰でも一度は考える疑問ではないでしょうか。
「トラにライオン、オオカミ……ワニ、サメ……、ああ、ゾウやクマも強いよな」
なんて、脳内でランキングしちゃう。
地味な思考遊びですが、スーパーマンとウルトラマンを戦わせるみたいにちょっと楽しい。
その凶獣ランキングに「クズリ」を入れる人は、なかなか「通」でしょう。
玄人受けするチョイスだと思います。(なんの玄人なんだか……)
クズリは1mほどのイタチの仲間。
知名度はイマイチですが、獰猛で知られています。
狙った相手をどこまでも追いかけ、仕留める、タフな殺し屋。
ヒグマより大きいグリズリーまで殺せるなんて噂もある。
とにかく、エンカウントは避けたい獣らしい。
しかし、噂は噂。
話を大盛りにして伝聞されるもの。
クズリ最強も、都市伝説の類じゃないかと訝しい。
そんなに強いのなら、もっと有名で、怖れられているだろうし。
クズリは本当に強いのか。
考えてみようじゃありませんか。
クズリはどんな動物?
僕が子供の頃読んだ本に、クズリが載っていました。
「世界一凶暴な動物!」
「小さいが、怖ろしい肉食獣!」
「自分の何倍も大きな相手に挑む!」
みたいな煽り文句に、トナカイだかヘラジカだかに飛びかかるクズリのイラストが描かれていました。
対比表現なのか、クズリがやけに小さく描かれていたため、クズリという名前もあって、しばらく「リスの仲間」だと思っていたくらいです。(ズリとリスがゴッチャになった)
以来、僕のクズリのイメージはそのイラスト。
とんでもない動物がいるもんだと思ったものです。
悪名高い暴れ者
クズリは主に寒冷地に棲むイタチの仲間。
生息地は北欧、ロシア、モンゴルにカナダ。
アメリカでは温暖なカリフォルニア州など、西部でも見られます。
日本にはいませんが、サハリン(樺太)には生息していて、漫画の『ゴールデン・カムイ』にも、クズリに襲われるエピソードがありました。
英語では「ウルヴァリン/wolverine」で、「狼のような」「狼を狩る」の意。
マーベルの『X-メン』のヒーロー・ウルヴァリンは、名の通りクズリの能力を持つ設定。
これらの作品からクズリという動物を初めて知った人も多いんじゃないかな。
ウルヴァリンは日本語ペラペラの設定もある
学名は「大食漢」を意味する「gulo gulo/グログロ」。
こうしたことからも、クズリが貪欲で強靭な動物だとわかります。
クズリの大きさ
クズリは強そうに見えません。
大きめのタヌキか、小さめのクマという感じ。
体長はオスで1m前後、メスは80~90cmくらい。
四つん這いで高さが40cmほど。
中型の犬レベルの大きさです。
イタチ類では最大級ですが、特別に巨大ではありません。
しかし、イタチ類はネコ類、イヌ類、クマ類とともに「食肉目」の一員。
つまり、バリバリの肉食獣です。
捕食者に恥じない武器を持っています。
「強い」といわれる理由
クズリには強者の特性があります。
・鋭い爪
・強い顎
・好戦的な性格
などです。
細かく解説してゆきましょう。
攻撃力と体力を備えた戦士
マーベルのウルヴァリンの武器は、出し入れ自在な3本の爪刃。
その爪で敵を切り裂く。
アメコミらしい、分かりやすく、単純極まる、原始的な能力です。
クズリにも5本の爪があります。
クズリの正式和名は「クロアナグマ」。
穴掘りできる爪は、狩猟にも発揮されるのです。
「クズリ」はサハリンのギリヤーク人の言葉
さらに、顎が強い。
これはイタチ科全般の特徴なのですが、雑食性だからでしょう。
クズリも生きた獲物から屍肉、木の実や果物となんでも食べる。
咬むチカラというよりも、咀嚼力があるわけです。
クズリは牙も大きいので、咬まれたら骨くらいへし折られる威力でしょう。
そしてスタミナ。
大食いのクズリは食料を求めて動き回ります。
オスは620平方km以上もの範囲を移動するそうです。
これは東京23区の広さと同等。
しかも、雪の中を。
クズリの手足は大きく、雪に沈みにくいとはいえ、体力がないとできません。
闘争心溢れるクズリの狩り
クズリはタフに自信があるのか、他の動物にも怯まない。
オオカミやクロクマの獲物を奪い取ることさえある。
「美味そうなものを食ってるな。俺によこせ」という、ほとんどカツアゲです。
クズリの皮膚はブ厚く、敵の爪や牙の攻撃にも強いのです。
守りの固さがあれば、他の肉食獣も恐れるに足りません。
もちろん、自分でも獲物を襲います。
その狩りもスゴイ。
得意の木登りで樹上で待ち伏せ、時には3mもあるヘラジカも襲う。
獲物の首を狙って飛びつき、鋭い爪でしがみついて、頸骨や頸動脈を咬み砕いてしまう。
とんでもなく気が強い。
不用意に近づけば、人間も襲われます。
「懐いてくれる」なんて期待は持たないのが賢明。
まあ、懐けば可愛げもあるんですが。
無尽蔵のスタミナで、執拗に追い掛け回すストーカー気質でもある。
しつこい武闘派とか最悪ですよ。
目をつけられたら、とことん追われる。
たまったもんじゃありません。
そうした生態から、「最強!」といわれるのですが、本当にクズリが強いかは疑問です。
クズリの強さは本当なのか?
クズリの獲物は多岐に渡ります。
多くはネズミ、リスなどの小動物。
これだけなら驚かない。
時に、体長が2m以上もあるトナカイやヘラジカ、牛なども襲う。
仲間のイタチやテン、ミンクもクズリの獲物です。
キツネ、オオカミ、コヨーテといった強い肉食獣も捕食します。
ホッキョクグマ、グリズリー(ハイイログマ)ら、最強クラスの陸生動物さえ仕留めるとか。
しかし、これらの話は誇張されているようです。
クズリ最強伝説の虚実
クズリが獰猛で、強気なファイターなのは本当。
大きな敵にも果敢に向かってゆくのも事実です。
でも、オオカミやクマにはさすがに分が悪いでしょう。
実際、クズリはオオカミと出会うと、そこから去ることが多いのです。
ただし、相手が若い(幼い)なら、その限りではない。
子グマ、子オオカミは捕食の対象。
基が強気なので、「勝てる」と思えば猛獣だろうが人間だろうが襲うのです。
アフリカのラーテルと、クズリは同タイプの動物です。
厚い皮膚で防備を整え、どんな相手にも強気で挑む。
体が大きくもないのに、大型の捕食者にも平気で突っかかる。
「強い」と見られるのは、そうした性格からのイメージが大きいせいです。
イタチ科は肉食獣の中では小さいほう。
どうしても獲物の奪い合いでは不利になります。
そのために多少のブラフをかますしかない。
オラオラしていないと、立場がどんどん悪くなる。
小さいハンデを「虚勢」で補っているのでしょう。
動物は基本的に無駄な争いは避ける。
ハッタリを利用すれば、争わずに主導権を握れたりする。
弱肉強食の世界では、「退かない」ことも大事なのです。
クズリの強さランクは?
クズリもたまにはオオカミやクマを襲います。
だから、「クマ殺し」も嘘ではない。
でも、それ以上に大型ネコ、大型イヌ、クマや猛禽に襲われているのです。
勝率にしたら3勝7敗くらいでしょう。
最強とまでは言えません。
自分より大きい相手なら、高確率で負けそう。
南国のライオンやヒョウやハイエナと、クズリが自然界で出会うことはないですが、一対一の戦闘力勝負なら、まず勝てません。
闘志を見せて、相手が「今は戦う気分じゃないんだわ」と去ってくれれば、クズリとしてはラッキーという感じだと思う。
そう考えると、クズリのランクも見えてきます。
オオカミ、クマも恐れないが、勝率は悪い。
草食動物なら大きい獲物でも狩れる。
自分より小さな肉食動物にはまず負けない。
「上の下」辺りにはランクインしそうです。
横綱ではないけれど、ときどき金星をあげる小兵の小結くらいの実力者ではないでしょうか。
まとめ
「最強」と噂のクズリ。
小さいながらも、体力と爪牙を武器に、どんな敵にも怯まない。
闘争心あふれる戦士です。
しかし、最強ではない。
大型肉食獣とケンカに明け暮れているわけじゃありません。
「大きい奴が強い」という野生のルールは、やっぱり鉄板なのです。
クズリの強みは、なんでも食べられて、スタミナがあること。
そして、たまには強気に出る。
別に最強にならなくても、じゅうぶん生きてゆける能力ですよ。
「生きることに遠慮なんかしない」
そんな強かさを感じられる動物だと思います。
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