カメはメジャーな生物です。
幼児でもすぐ思い浮かべられる。
多分、どんなに絵が下手な人でも、カメは描けるでしょう。
それだけ「特徴的」「キャラ立ちしている」生き物。
普段、当たり前すぎて感じませんが、カメは唯一無二の動物です。
似た生き物がひとつもいません。
生物史40億年を見ても、カメタイプの動物は他にいないのです!
明後日の方向の、さらに斜め上の進化をしてきたと言えるでしょう。
特に独特なのは、あの甲羅。
背にも腹にもあって、「石か」と思うほど硬い。
その甲羅に、本体がオレオのクリームみたいに挟まっている。
それだけでも奇態です。
カメは何を目指して、あの姿になったんでしょう?
カメの進化と甲羅の謎
「カメは甲羅を着ている」
子供の頃、僕はそう思っていました。
だってアニメとかで、カメが甲羅を脱いで裸になって逃げたりするじゃないですか。
マリオのノコノコとか……。
で、ミドリガメを買ってもらったとき、ちょっと引っ張ってみたんですが、これがビクともしない。
(そういえば、ミドリガメすぐ死んじゃったけど、そのせいなのかな……)
まあ、脱げるわけがありません。
あの甲羅、カメの一部なんですから。
甲羅は肋骨だった!
カメは昔から甲羅持ちでした。
恐竜のいた海にも「アーケロン」という4mのカメがいたくらい。
現在、最大のカメ「オサガメ」(体長約2m、甲羅の長径180cm)に、アーケロンの名残りが見られます。
もっとも古いカメの化石は2億年以上前。
「オドントケリス」という生物で、未発達の甲羅を持っていました。
その甲羅は、肋骨が進化したものです。
胸部を守っているあの肋骨。
ちょっとピンと来ないですよね。
人間でも他の脊椎動物でも、肋骨はあくまで「胸の保護」。
心臓や肺を守る役割です。
しかし、カメは「肋骨でうなじから尻まで守ろう」としました。
肋骨を横に、上下に、広げていったのです。
昆虫やカニのような外骨格を、肋骨で作ろうとした感じ。
そこでひとつ困った。
肩甲骨が邪魔になる。
節足動物とは構造が違うので、肩を自由に動かすには、肩甲骨は肋骨の外にないとなりません。
でも、肋骨を横広げすることで、肩が内側に引っ張られ、それもクリア。
腹側では鎖骨など前方の骨も加わる。
その肋骨を、ウロコのような皮骨でさらに多い、全身を固めまくったのです。
おかげでカメは「肩と尻が肋骨の内側にある」唯一の脊椎動物。
可動域は制限され、腹甲のため腹筋もできない。
腹部を少し曲げられる種もいます
素早い動きは苦手で、「ノロマ」の代名詞になっちゃった。
スローに生きることで、寿命は長めになり「長寿」の象徴にもなった。
カメのキャラは、すべて甲羅を持ったことに起因していると言えるかもしれません。
やはり「ガードを固める」ことが理由でしょう。
カメの進化
恐竜が支配者だった中生代(約2.5億~6500万年前)。
しかし、最初の5000万年(三畳紀、約2億年前まで)は、戦国時代のような様相でした。
両生類から、爬虫類になるもの、哺乳類になるものが派生して、多様化。
そのうち、爬虫類グループから現れた恐竜が「天下を取る」わけですが、まだまだ初期の爬虫類は弱く、試行錯誤していた時代です。
基本的には「攻め」か「守り」ですから、カメは防御を極める方向で誕生したのでしょう。
2.4億年前、「シノサウロスファルギス」という爬虫類がいました。
肋骨を広げ、背中のウロコを硬質化した生物と考えられています。
こいつが多分、カメのプロトタイプ。
まだ「甲羅」というほどではなく、「硬い覆い」といった感じ。
現在のアルマジロのようなイメージ。
そこから完全な甲羅まで作り上げ、頭や手足を引っ込められる仕様になった。
首を前後に出し入れするのが「潜頸亜目」。
首を横に曲げて収納する「曲頸亜目」。
さらに、引っ込んだあと蓋までする種も誕生。
ウミガメやゾウガメなどは引っ込めません
引きこもりに徹しながら、水陸から海にも進出。
現在の多種多様なカメになったというわけです。
こちらが最大種のオサガメ。
こうして守備に特化したカメ。
でも、あの甲羅はどれほど効果があるのでしょうか?
甲羅は役立っていない?
甲羅を背負うことがカメの宿命。
しかし、スッポンのように甲羅が軟らかいタイプもいます。
水中で素早く動きたいスッポンには、逆に甲羅は邪魔な物。
そこで、甲羅を薄く扁平にして、軽量化と水の抵抗を受けにくくしたのです。
これって「甲羅はそこまで役に立っていない」ってことに思えるんですが……。
甲羅が割れたら
カメの甲羅は肋骨で、本体の一部。
鎧や盾のような防具ではなく、ただの外殻です。
当然、甲羅へのダメージは本体も痛い。
甲羅はカメのほぼ全身を覆っており、表面積の大半を占めるので、常に「肋骨骨折」の危険がある。
事実、甲羅はよく破損します。
例えば、ペットのカメが逃げ出し、高い場所から落ちる。
家具のある室内なら起こり得るでしょう。
考えてみれば、カメって一番「地面から離れること」を怖れている生物かもしれません。
ひっくり返っても苦労しますし
端のほうがひび割れるくらいなら、カメも「痛ってぇ」で済みます。
でも、大きく割れたら命取りです。
下手したら内臓が飛び出して、お星さまになります。
だから、飼育の際は逃げないようにする、低い場所で飼うことがおススメ。
自分から高い場所に向かうこともないでしょう。
小さい割れなら、カメは自力で治癒します。
薬など塗る必要はありません。
気になるようならギプス代わりに、紐や拘束バンドでくっついた状態を維持してやればいいでしょう。
大きい破損なら、もう病院です。
カメにも天敵はいる
自然界でも、甲羅の破損はけっこうあると思います。
守りが固いようで、そこまで安心できないのがカメの人生。
ひっくり返ったら、首を支点にして戻るのですが、どう見ても楽ではないし、種類によっては起き上がりできないのもいて死活問題。
なんとなく甲羅に守られて、のんびり生きているように見えますが、実は「おっかなびっくり」暮らしている気がします。
カメは意外と天敵も多い。
ワニやサメ、咀嚼力の強いジャガーなどは、甲羅を物ともしません。
サルやカラスも、甲羅を割る知恵があるのでカメを食べます。
石で割られたり、空から落とされたり、クルミみたいな扱いをされます。
犬に猫、イタチ、ネズミといった動物すら、カメを襲うことがあるのです。
ノロマだから捕まえやすいのでしょう。
まあ、甲羅で「あきらめてもらえる」確率は上がると思いますが、そこまで完全武装じゃないんですね。
いつでも引きこもれて「カメはいいなぁ」と思っていたんだけど、カメは苦悩も多そうです。
まとめ
恐竜が現れるよりもずっと前。
爬虫類の初期の頃、甲羅を背負うという変則の進化をやってのけたカメ。
肋骨を外にして、体を入れてしまうなんて、ちょっと思いつきません。
防御の大家といった雰囲気があります。
しかし、甲羅の破損は命取りだし、ひっくり返って起き上がれなくなったら終わり。
守りも中途半端で、動きも制限され、デメリットも多そう。
それでも2億年以上生き残り、今も繁栄している。
マスコット素養も高く、愛される動物ですし、カメ的には大成功なんでしょうね。
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