オオカミといえば大自然が似合う。
カナダとかシベリアとかを走っているイメージじゃないでしょうか?
日本にも百数十年前までオオカミがいました。
『もののけ姫』とか『ゴールデンカムイ』とかにも出てきますしね。
北海道のエゾオオカミと、本州・四国・九州のニホンオオカミです。
どちらも明治時代に絶滅。
わりと最近なのに、日本のオオカミについてはわからないことが多い。
「なぜ絶滅したのか?」
「ヤマイヌとは違うのか?」
「生態系にどんな影響を与えたのか?」
さらに今なおある目撃情報や、オオカミを復活させる計画など、話題は豊富です。
今回はオオカミの過去・現在・未来を辿ってみたいと思います。
正体不明?謎が多いニホンオオカミ
オオカミは北半球で珍しくない動物です。
ヨーロッパではオオカミの逸話も多く、童話や狼男の話でお馴染ですよね。
それに比べると、日本でオオカミの話ってあまり聞かない気がしませんか?
昔話にもキツネやタヌキはよく出てくるのにオオカミ出演作は思いつかない。
桃太郎のお供だってオオカミ3頭のほうが戦力になりそうなのに。
これはオオカミが「大神」――日本で神格化されていたことが原因でしょう。
オオカミが日本で神格化される理由
狩猟民族の白人にとって、オオカミは獲物を捕りあうライバル。
だからどうしても敵対し、関わりも自然に深くなる。
農耕民族の日本人からすると、オオカミは農作物を荒らすシカやイノシシを減らしてくれるありがたい存在。
なので「大神」と崇めるのです。
神様なのでちょっと絡みづらい。
童話にしても、西洋の唯一神と違って、日本の神様は庶民派ですから、オオカミを象徴で出さなくても、神様をそのまま出したほうが手っ取り早いんじゃないでしょうか。
逆にガチの神様が出てくる西洋童話ってあまりない気もするし。
日本人にはオオカミは「山の主」みたいな感じで、里と住み分けられて関係は浅かったんだと思うのです。
そのせいか、日本のオオカミに関する文献が実に乏しい。
これが正体をわかりにくくしています。
ニホンオオカミとエゾオオカミはかなり違う!
エゾオオカミは体長が120cm、尾が30~40cm。
DNAから動物園にもよくいるタイリクオオカミに近い亜種であることがわかっています。
群れで狩りをするなど、生態も近いと推測できます。
ニホンオオカミはやや小柄で、体長1m強で尾長が30cm。
シェパードよりちょと小さいくらい
こちらもタイリクオオカミの亜種と考えられているのですが、まったく違うという意見もあります。
ニホンオオカミはオオカミらしくないオオカミなのです。
しかも、文献や記録が少ないうえ、毛皮、剥製もほとんどなく、よくわからない。
そこで気になるのが「ヤマイヌ」。
日本ではオオカミをヤマイヌと呼ぶこともある。
これはニホンオオカミを別な名前で呼んでいるだけと思われていました。
しかし、別な2種の動物がいたとも考えられるのです。
ニホンオオカミはいなかった!?
注意してほしいのは、ここで言う「ヤマイヌ」は「山に棲む野良犬」ではないってこと。
現代はそういう意味で「ヤマイヌ」を使いますが、昔はヤマイヌという動物がいたのです。
問題はその「ヤマイヌ」と「オオカミ」が同じかどうか。
ちょっとややこしいですね。
オオカミは狼、ヤマイヌを大陸アジアにいるドール(豺)と考えればわかりやすいかも。
ドールは「アカオオカミ」とも呼ばれる、オオカミとは似て非なる動物です。
こんなの↓
「ヤマイヌ」と「オオカミ」は1種の動物、ならわかりやすい。
しかし、昔は日本にオオカミとドール(もどき)がいて、呼び分けられていた可能性もある。
またはドールを「オオカミ」「ヤマイヌ」と呼んでいて、実はオオカミなんかいなかったかもしれない。
じゃあ、そのドールもどきは何者?
日本にドールがいた記録はありません
ニホンオオカミはかなり謎の動物。
生き残っていれば、解明もできるんですが……
劇的な絶滅と、現代にもある目撃
絶滅した理由もいまいちわかりません。
定説ではこんな感じ……
明治以降、近代化が進み野生動物が減った。
獲物の減少に加え、開拓の害になる猛獣オオカミも駆除の対象になった。
西洋犬の輸入で狂犬病やジステンパーが流行。
江戸から明治にかけてオオカミ信仰がブームになり、その頭蓋骨が儀式に使われたため、売り物にするのに捕殺された。
こうしたことの合わせ技でオオカミは滅んだというのです。
エゾオオカミは1890年代にはもう見られなくなりました。
ニホンオオカミは1905年に奈良県で捕獲された記録が最後。
明治維新は日本の野生動物にとってもビッグインパクトだったのでしょう。
オオカミ目撃!しかし調査はされず
1996年、埼玉県秩父でオオカミが目撃、撮影されています。
秩父はオオカミ目撃が多く、遠吠えが聞こえることもあるそうです。
写真があるなら……と思うのですが、どうもはっきりしない。
いや、写真はけっこう鮮明で、研究者も「本物らしい」と太鼓判を押していたんです。
マスコミにも取り上げられました。
しかし、それがオオカミなのかただの野犬なのかが判然としない。
ニホンオオカミ自体がよくわからないのだから、区別の決め手がないですよ。
ニホンオオカミは下の動画で見てもこんな感じですから、犬との違いも微妙だし。
結局は「嘘つき」「デマ」と中傷され、調査もされませんでした。
大分でオオカミが撮影されたのが2000年。
これも秩父と同様に、「んなわけない」で尻すぼみ。
2010年は三重県でシカを倒したオオカミが目撃されるも、これもシルエットで断言できない。
古くは1910年に福井県で捕獲されたオオカミの記録はあるけど不確実ですし、最後の捕獲の5年後で生き残りがいても不思議はなく、今もいるとは言えないです。
オオカミはそこそこ目立つ動物。
今でも生き残っているなら、もっと目撃されるでしょう。
ニホンオオカミは縄張りに入ってきた人間をつけ狙う習性があったといわれます。
だとすれば、人間の目にとまりやすいはずですよね。
オオカミ現存の可能性は薄いというしかありません。
オオカミの魅力に惹かれた人は今も多く、その発見に取り組んでいます。
いつか彼らの手で、オオカミがまだいるとわかる日が来るかも。
一方で、オオカミの再輸入を考える人たちもいます。
オオカミの復活計画は必要か?
シカなどが増え、農業被害の増加が問題になっていますよね。
これは「肉食のオオカミがいなくなったから」と考える人たちがいる。
そこでタイリクオオカミを日本に放ち、草食動物を減らそうというのが復活計画。
オオカミの再導入はアメリカで実際に行われ、おおむね成功した例があるのです。
しかし「オオカミが日本で増えたら、今度はオオカミの獣害が増える」と反論も。
だだっ広いアメリカならともかく、山と町が近い日本では危険でしょう。
問題が多いということで実現の目途は立っていません。
オオカミのニッチはなぜ開いたままなの?
僕も再導入はどうかと思います。
それは絶滅に疑問があるからです。
元々崇められていたオオカミが、それほど徹底的に駆除されたのか?
自然破壊や病気だけで、ここまで短期間で絶滅までするものでしょうか?
僕は思うんですが、日本のオオカミは最初から多くなかったのかもしれません。
日本にはトラやライオンのような肉食動物がいない。
昔はオオカミがそのポジションだったんでしょう。
それが絶滅したのに、そのニッチが今も埋まっていません。
ニッチは「隙間」の意味ですが、本来は「生態的地位」という生物学の用語です。
“キャラ”みたいな意味と思えばいい
生物界では何かが滅びても、そのニッチが別な動物で埋まるものです。
芸能界で例えるなら、○○キャラというタレントは飽和状態なら新人は出てきませんが、いなくなるとそのニッチを埋める新しい○○キャラが現れるって感じ。
オオカミはその代わりになる動物が出てきていない。
復活主張派は「それが異常な状態だから」といいます。
島国なので、新しいキャラが入ってこないという理由もあるでしょう。
でも、それってオオカミのニッチ、つまり占める地位が元々小さく、埋まらなくても変わらないということではないか。
シカなどの増加は、狩猟者が減ったこと、動物愛護で大規模な駆除がしにくくなったこと、人間の食料も食べるようになったことで、説明もつくでしょう。
オオカミは明治以前から少数だったんでしょう。
だから絶滅も早かった。
その後もニッチが空いたままで問題がなかったからだと思うんですよ。
僕も日本の山野を駆けるオオカミを見たい気持ちは大いにある!
だけど、再導入は安直すぎる……かな。
日本固有のニホンオオカミ、エゾオオカミの代用品はいないですからね。
まとめ
日本のオオカミが絶滅して百余年。
数少ない痕跡を残し、オオカミはほとんど伝説の域になっています。
本当に人を魅了する動物ですよね。
現在もある目撃や、復活を夢見るのも、オオカミ愛なのかもしれません。
ちなみに人気の柴犬は、ニホンオオカミの血を濃く引いているといわれています。
ニホンオオカミは滅んでも、その遺伝子は別の形で和犬に残っている。
それもまた浪漫でしょう。
コメント
害獣と言えば鹿、猪、猿の駆除により数を調整してるが本来は鹿や猪は狼が捕食する自然の摂理によってお互いの数が一定に保たれるのが理想だろう。
猿については人間が駆除する以外手段無し。
獣害の現状を知らないで駆除を反対するバカな動物愛誤者は自腹で損害額を補償すべきだろう。