「八丈島のきょん!」
50歳より上くらいの人なら、懐かしいギャグかもしれません。
どこが面白いのかはよくわからないのですが……。
この「きょん!」は接尾語でも囃し言葉でもなく、動物の名前。
シカ科ホエジカ属の「キョン」という動物です。
このネーミングで、見た目は小鹿。
おまけに日本にも生息している。
人気が出そうな予感がしませんか?
しかし、このキョンはかなり厄介者です。
農作物を食ううえ、鳴き声もちょっと怖い。
現在、どんどんと数を増やしている侵略者なのです。
キョンってどんな動物?
キョンは漢字で「羌」。
元々は中国南東部と台湾にいる動物で、
「小麂」「山羌」「黃麂」
とも書かれます。
特徴は漢字にも表れている。
体長は50~70cm、体高は50cmくらい。
体重も15kg前後で、鹿のミニチュアです。
それでもオスには短いけれど角もあり、八重歯のような牙もある。
「黃麂」は顔の色からきているのでしょう。
体は茶色なのに、顔の部分は薄い黄色。
おでこの辺りに黒い模様があります。
鹿らしいクリッとした両目の内側に臭いを出す開口部がある。
それが閉じている目に見えるので、別名「四目鹿/ヨツメジカ」。
なかなか愛らしい容姿です。
八丈島にキョンはいない?
生息地は森林や藪。
鹿なので草食ですが、場合によってはネズミなんかも食べることがあるようですね。
日本では千葉県の房総半島と、伊豆大島で野生種が見られます。
外来種として持ち込まれ、定着したのです。
気になるのは「八丈島のきょん!」。
昭和50年代に一世を風靡したギャグ漫画『がきデカ』で使われた、ほとんど語呂と勢いだけで笑わせる一言ギャグなんですが、八丈島には野生のキョンはいません。
動物公園にはいるので、作者さんがそれを見ただけなのかな?
それを人気ギャグに昇華しちゃう才能には憧れます。
『がきデカ』は「死刑!」とか「あふりか象が好き!」とか、意味不明の下品ギャグ満載でした。
今ならPTAに潰されてますよ
キョンは小さい鹿で、ギャグのフレーズにもなる覚えやすい名前。
人気者になれそうなのに、生息地ではキョンはとにかく邪魔者。
もう「可愛い」なんて言っていられない状況です。
千葉と伊豆大島で大繁殖!
千葉と伊豆大島のキョンは、いずれも公園から逃げたものです。
野生化して、繁殖。
数十年で、千葉では4万頭。伊豆大島では島の人口の倍近い1万5000頭以上になりました。
堂々と特定外来種に指定されています。
外来生物法の発足の最初から、
キョンは害悪生物になっています
キョンの繁殖力と鳴き声
温暖な気候にマッチしたわけですが、キョンの繁殖力も理由のひとつ。
メスは出産して2ヶ月も経てば、すぐ繁殖できるのです。
つまり、出産→妊娠→また出産のサイクルが早い。
妊娠期間が7カ月ほどなので、約9カ月おきに子供を産む計算。
一年で3割増しくらいの増殖率。
天敵となる肉食獣も日本は多くなく、生息域は拡大しています。
で、農作物を食い荒らす。
時には、人家の庭の植物までも漁るいやしさです。
車とぶつかる交通事故も起こる。
鳴き声の問題もあります。
ホエジカ属のキョンは、当たり前ですが吠える。
キョンという名前も、鳴き声が「Kiong!」と聞こえるから。
一般的に「犬のような」と表現されていますが、あまり気持ちのいい声ではありません。
鬱蒼とした山中で聞くと、けっこうホラー。
物の怪の呼び声みたいな。
騒音とまではいわないまでも、嫌な感じはします。
こちらがキョンの鳴き声。
キョンはハンティングできない
当然、駆除が必要なのですが、結果は芳しくありません。
駆除には罠を使います。
射殺しないのは、日本の鹿のように狩猟が認められていないから。
元々日本にいない動物だから、想定もされていなかったんでしょう。
でも、キョンが野生化して50年足らず。
日本の法改正の遅さも感じますね。
とはいえ、キョンは狩猟もしにくい動物です。
視界の悪い森林で単独行動し、体は小さく狙いにくい。
もっと抜本的な駆除計画が必要でしょう。
いっそ家畜化しちゃってはどうでしょうか?
キョンは飼育が不可能か?
キョンは魅力的な家畜になれそうです。
肉がとてもジュ~スィ~なんだそう。
味は牛の赤身に似ていて、中華料理では高級食材らしい。
もちろん、ジビエ料理にも使えます。
カネになりそうな気がする……。
わりとおとなしいし、サイズも大きくない。
繁殖も楽。
キョンは皮もいいのです。
楽器やレンズを拭く「セーム革」では最高級品。
「キョンセーム」といえば立派なブランドです。
きめ細かく、眼鏡やスマホ画面もピカピカになるんだとか。
髪の毛の15万分の1という超極細の天然繊維。
抗菌、抗ウイルスの効果もあるという。
それだけで、すごい使えそうですよ!
手作りマスクには使えないと思いますが
利用しにくい特定外来種
見た目の可愛いキョンは、見世物にもできます。
「キョン牧場」みたいな施設を作ればいいと思うんですが……。
ここにも「特定外来種」の縛りがあります。
特定外来種は基本的に「飼えない」。
なぜなら「特定」とは「逃げたら日本で繁殖して被害を出す」という意味だから。
まあ、ほとんどの特定外来種は、飼われていたものが逃げて被害が出てから指定されるので、本末転倒な話なんですが。
商業用に家畜にするなら、完全な管理体制が必要です。
キョンで金儲けは難しそうですね。
今は数を増やさないよう、地道に駆除してゆくしかありません。
まとめ
キョンは日本に定着した特定外来種。
可愛いですが、農業被害を及ぼす侵略者です。
勝手に連れてこられて、日本に住みついたら害獣扱いというのも気の毒ではある。
でも、農家の敵ですから駆除はやむを得ません。
現在、数はある程度抑えられているものの、生息域は広まっていて、他県へ侵入する怖れもあります。
キョンの動きには目が離せないのです。
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