日本人には馴染みの魚ウナギ。
でも、種類まではよく知らないかもしれません。
「そういえばヤツメウナギってのがいたなぁ」
ヤツメはまあまあ知名度の高いウナギ。
思い出した人もいるでしょう。
しかし、ヤツメウナギはウナギではありません。
それどころか、魚でもないのです。
「じゃあ、なんだ?」と訊かれても、とても答えにくい変な生物。
「正体不明の寄生生物」というしかない。
その牙が人に向けられることもあります。
とんでもない化物ですよ。
それでも、人間様はホイホイ捕まえて、普通に食べちゃうんですが。
今回はヤツメウナギについて。
「何者なのか?」「生態は?」「どこにいる?」「美味いのか?」。
多くの謎にお答えしましょう。
魚になる前の生きた化石
ヤツメウナギは世界中の川や湖で見られます。
日本にも
「カワヤツメ」
「スナヤツメ」
「シベリアヤツメ」
「ミツバヤツメ」
の4種がいて、九州より北に生息しています。
一生を淡水で過ごすものと、何年か海にいて、繁殖のために川に戻るものがある。
![](https://ani-mys.com/wp-content/uploads/2019/01/huki1.png)
カワヤツメは海に出張するタイプです
頭部の側面にエラに当たる孔が7つ。
本物の目と合わせて「八つ目」に見えるからヤツメウナギ。
でも、ウナギではないのです。
ヤツメウナギ種は体長十数cmから1mほど。
どれも細長いので、ウナギに見える。
それでウナギの名がついたのですが、まったく違います。
ヤツメウナギは「無顎類」「円口類」だからです。
魚ではない無顎類とは?
ヤツメウナギの口は丸く、
牙のような角質歯が円形に並んでいます。
まるでSFに出てくる宇宙生物のよう。
このような口は、軟体動物によく見られます。
イソギンチャクの口とか、思い出してもらえれば想像しやすいかも。
円口なのは、顎がないから。
だから「無顎類」とか「円口類」と呼ばれる。
現在、ヤツメウナギと、海にいるヌタウナギだけしか属さないグループです。
脊椎動物は魚であれ人間であれ、
必ず上下に開閉する顎を持っています。
ヤツメウナギは脊椎動物なのに顎がない。
この理由は進化を追うとわかりやすいです。
脊椎動物の先祖は、ナメクジウオのような生物でした。
今から約5億年前、カンブリア紀のこと。
筋肉組織だけの軟体動物と違い、「脊索」という未発達の背骨のような芯を持った、筋の通った生物の誕生です。
その後、脊索は脊椎になり、骨と脳を持つ脊椎動物になります。
脊索と脊椎の違いは、
「“索”が“ロープ”」「“椎”が“柱”」
と感じ取れば、わかりやすいかと。
しかし、顎はまだなく、軟体動物のような丸い口のまま。
それでも、魚とかヘビに似た形態を得て、魚類っぽくなった。
これが脊椎動物・無顎類です。
無顎類は繁栄しましたが、1億年も経つと、その中から有顎のニュータイプが登場。
板皮類(ばんぴるい)、棘魚類(きょくぎょるい)など。
「魚」と呼べる古代魚です。
![](https://ani-mys.com/wp-content/uploads/2019/01/huki3.png)
板皮類は“甲冑魚”ともいわれます
これらも2億5000年ほど前にほぼ全滅するのですが、しぶとく生き残った無顎類がたった2ついました。
ヤツメウナギとヌタウナギ。
脊椎動物から、顎を持つ魚類になる前の「生きた化石」。
つまり、カンブリア生物の名残りを伝える、5億年前のビンテージ生物ってこと。
なので、無顎類は「魚になりきれていない生物」で、当然「ウナギでもない」のです。
そんな口のヤツメウナギは、「咬む」ことができません。
丸い口を吸盤にして吸いつき、体液を吸う吸血性の生物です。
デカい蛭(ヒル)のようなもの。
もちろん、人間だって襲うのです。
川のバンパイア・ヤツメウナギ
吸血せざるを得ないヤツメウナギ。
獲物の魚に吸い付き、角質歯で表皮を食い破る。
唾液には肉を溶かし、血液が固まらない物質が含まれ、いつまでも吸い続けることができます。
憐れな魚は、ヤツメウナギを振り落とそうと必死にもがく。
しかし、簡単には剥がれません。
ヤツメウナギが満腹になるまで、逃げることは叶わず。
時には数日も吸われ続ける。
魚はゆっくりと命を吸われ、死に至る。
死なないまでも体力は奪われ、いずれ息絶えるか、弱々しく別な捕食者に食われるか。
死神に憑りつかれたようなものです。
ヤツメウナギは人間にだって吸い付きます。
人間も吸血?害はないのか?
ヤツメウナギのいる川や湖で泳げば、普通に吸い付いてきます。
捕まえようとして手を出しても、同じです。
釣った魚に2~3匹ひっついていることも珍しくない。
見境がないんです。
それは前述したように、まるでヒル。
気持ち悪いこと、この上もありません。
でも、幸運なことに人間には手がある。
掴んで引っ張れば離せます。
もちろん、多少の痛みはありますし、不気味でしょうが、ヤツメウナギをくっつけたままにしておくのもお笑いタレントか、挑戦系のユーチューバーくらいでしょうから、すぐに引き離せば問題はありません。
毒もなく、人間を食い殺すほどの獰猛さはないので、落ち着いて処理しましょう。
僕もよく番組を見るジェレミー・ウェイドさんも体張っています。
しかし、魚への被害はあり、遊び場としてもマイナスです。
ヤツメにひっつかれる場所で、泳ぎたくないですもんね。
駆除することもありますが、効果は今一つ。
生態がよくわかっておらず、これという対応策がない。
ヤツメウナギには天敵もいないのです。
唯一の敵は人間でしょう。
捕獲し、食ってしまう。
最後に、捕り方や味にも触れておきます。
ヤツメウナギの捕獲・味・効能
吸血のヤツメウナギは、餌釣りができません。
もちろん、ルアーなどにも食いつかない。
直接ふんづかまえることになります。
手づかみ・網で簡単に捕れます!
ヤツメウナギは全国的にいますが、北海道・東北・北越が産地。
旬は秋~冬で、夏場でも見つけられます。
捕獲法は「手づかみ」か「タモ網」。
ヤツメのいる場所で探してみる。
石などにくっついていることも多いです。
網漁は上流から追い込んで、下流で確保するイメージでいいでしょう。
ガサゴソ漁で、幼生の「アンモシーテス」が捕れることもあります。
![](https://ani-mys.com/wp-content/uploads/2019/01/huki3.png)
7つのエラ孔があるのですぐわかります
できればキャッチ&リリースでお願いします。
スナヤツメは絶滅危惧種でもあり、保護されている場合もあります。
また、ヤツメウナギ漁で生計を立てている漁師さんのためにも、勝手に捕ったり持って帰るのは控えるべきかと思うんです。
ウナギより味はワイルド
ヤツメウナギは古くから世界中で食べられてきました。
ウナギよりも食文化は広いでしょう。
ヤツメはビタミンが豊富で、「精がつく」という点ではウナギ以上。
目のかすみ、ドライアイなど目の悩みに効果が高く、感染症の予防にもなる。
コロナ禍のテレワークの、お助け食材ですね。
多くはありませんが、産地では蒲焼き、鍋、ワインの煮込みなどを提供する店があります。
ヤツメは現在、数も減り、ウナギ並みの高級食材になりつつあり、値段はお高め。
ウナギより肉が固く、レバーかモツのような感じ。
味は個人差ですが、クセがある。
表現が難しい、独特な味です。
機会があれば、一度挑戦してみるといいでしょう。
食べる際は、現物を見ないほうがよさそうですが……。
まとめ
ヤツメウナギは、無顎類という貴重な生物。
5億年前の趣を残しています。
魚類の一歩手前のまま、生きてきた。
そんな生物が普通に川を泳いでいるなんて、ちょっと感動します。
ヤツメと人間の関係も深い。
スタミナ食材として、料理や漢方薬にも使われます。
グロい姿も、むしろ効能たっぷりの雰囲気。
なんでも乗り切れそうな気がします。
コメント
ヤツメウナギがウナギでないのはそうだけど、魚ですらないってのはちょっと違うというか、語弊がある。まあそう言った方がインパクトがあるのだろうけど。
確かに一般的にいう狭義の魚、硬骨魚類や軟骨魚類ではないけど、魚の定義は広義だと「脊椎動物から四肢動物を抜いた動物群」であり、ヤツメウナギは脊椎の痕跡を持つれっきとした脊椎動物に分類されています。
ご指摘ありがとうございます。
おっしゃる通り「狭義の魚ではない」を「魚類ではない」と言い切るのはオーバーな言い方でした。
「誰もがイメージする魚とは違う」「特殊な魚」といったニュアンスで受け取って頂けると助かります。
記事にするに当たり、誇大な表現やインパクト重視になったり、結果的に誤った情報を伝えてしまう
場合もあるので、こういう補足などはとてもありがたく、私も勉強になります。
今後もよろしくお願いいたします。