今回のテーマは「魚の餌」。
サカナのエサについて……じゃないです。
「ウオノエ」と読みます。
魚の口の中にいる生物だからウオノエ。
でも餌じゃない。
魚に寄生しているのです。
「でもどうして口の中?」
居心地がいいとは思えないんですが。
ウオノエの奇妙な生活や生態をみていきましょう。
ウオノエの寄生方法
釣った魚から針を外そうとしたら、口の中からこちらを見ているヤツがいる。
「うぉぉ!」と驚く光景です。
「深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを見ている」
それを地でいく生物こそ「ウオノエ」。
このウオノエは広く分布し、珍しいことではありません。
口の中でコイツは何をしているのでしょう。
体内に巣食うバンパイアだった!
ウオノエは等脚目に属します。
ダンゴムシやフナムシ、最近人気のダイオウグソクムシなどの仲間。
しかし、ウオノエだけが別の道を見つけました。
「寄生」です。
魚の口、えら、表皮に取りつき、
宿主の体液を吸って生きています。
特に知られているのは、口内に寄生するウオノエ。
エラから侵入し、口の中にちゃっかり居候。
いや、そんな可愛いもんじゃない!
魚の舌に取りつき、体液をチューチュー。
舌は腐ってしまい、そこにウオノエがくっついて舌の代わりになります。
鉤状の爪で、がっしり舌の根元に取りつくのです。
代わりといっても、何もしません。
舌のふりして、体液を吸うだけ。
これはタイに寄生したウオノエ(タイノエ)。
ウオノエが快適?な住処を見つけただけで、魚には迷惑でしかありません。
栄養を吸われて、どんどん衰弱してゆく。
やがて、死んでしまいます。
すると、ウオノエは「チッ、これ以上搾取できんな」と出てくる。
![](https://ani-mys.com/wp-content/uploads/2019/01/huki1.png)
一方だけが得をする「片利共生」といいます
もっとも、ウオノエももう次のターゲットは探せません。
寄生は幼生の頃にするもので、成長したらできない。
宿主の死で離れたウオノエは、餓死するか、本当に「魚の餌」になるだけ。
完全に寄生に特化した生物です。
その生涯も、かなり変わっています。
ウオノエの生活は三密?
ウオノエの幼生の、宿主探しは「運」のみです。
楽な寄生人生と思いきや、初っ端からバクチですよ。
上手く宿主に辿り着けば幸運。
ほとんどは宿主と出会えないか、口には入ったものの定着できずに餌となるか。
寄生できればシメシメです。
出会いも団らんも口の中
奇跡的に寄生できたウオノエも苦難の道です。
そこは魚の口の中。
密室にいては繁殖できません。
ウオノエは雌雄同体ですが、オス面が先に成熟します。
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雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)といいます
だから、オスとして成長する。
そこに二匹目のウオノエが寄生してきたら……。
「オスが二匹じゃしょうがない」
先住ウオノエがメスになり、新参ウオノエがオスになって、カップルが成立します。
この辺は、出会いの少ない寄生虫らしい。
二匹が出会ったら必ずカップリングできるシステムです。
オスはメスよりずっと小さく、魚の口を「愛の巣」にして繁殖するのです。
時には3匹目が来て三角関係になったり、
カップルの産んだ幼体がそのまま魚に寄生して、家族で暮らすこともあるんだとか。
狭い場所で、数匹が密集。
口の中で寄生虫に三密生活やられるなんて、魚はたまったもんじゃありません。
深海から広まった?
こうした生態は、ウオノエの進化に原因があるようです。
ウオノエは海にも、一部は川にもいます。
400種ほど知られ、新種もよく見つかる。
それらを調査すると、深海のウオノエが古いのです。
おそらく、ダイオウグソクムシのように、初期のウオノエも深海でおとなしく暮らしていたのでしょう。
そのうちに寄生を覚える種が現れる。
元から出会いのチャンスが乏しい深海。
動いてくれる魚に乗っかって、繁殖はそこで待ち合わせすれば効率がいい。
深海生物のさまざまな障害を、寄生という手段で乗り越えた感があります。
生息範囲も広まる。
タイに付く「タイノエ」、
アジなら「アジノエ」、
イワシの体表に付く「イワシノコバン」
など、それぞれの魚に専門で付くウオノエも登場。
これはサヨリのえらに寄生する「サヨリヤドリムシ」。
勝手に宿る迷惑な野郎です。
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まさに魚類と一緒に発展した生物です。
寄生虫の鑑(かがみ)といってもいい。
そんなウオノエさんは見つけるのも難しくありません。
ウオノエの味と見つけ方
寄生虫ウオノエは、魚に付く。
漁師や釣り人にとっては、よく出会う生物です。
でも、フナムシだかダンゴムシだかみたいな気持ち悪いのが付いた魚なんて、誰が買うというのか。
売り物はもちろんチェックし、ウオノエを外しています。
ウオノエに寄生された魚は、栄養を奪われて美味しくないことが多いのです。
しかし、チェック漏れもある。
スーパーで買った魚の口内にウオノエがいることも。
良くも悪くも、魚と運命共同体ですから。
家で捌いて、「キャーッ!」ってこともあるわけです。
![](https://ani-mys.com/wp-content/uploads/2019/01/huki3.png)
活魚でなければ、ウオノエも死んでいるので、そのまま捨てちゃいましょう
しらすチェックで見つかることも
もう少し楽しく探すのなら、「しらす」や「ちりめんじゃこ」がおススメ。
別な生物が混入していて、見つけるのが楽しいらしい。
そこにフナムシか、本に付くシミのような形の生き物があれば、寄生する前のウオノエかもしれません。
「そんなのがいたら、食べられない」
気持ち悪く感じる人もいるでしょう。
ウオノエは魚の寄生虫ですが、人間に害はまったくありません。
それどころか、かなり美味だといいます。
実は美味しい縁起物
僕は食べた経験がないのですが、食べた人は
「エビのよう」
「シャコより美味い」
と、なかなかの好評価。
まあ、甲殻類にも近く、魚の栄養をもらっているのだから、食うのは可能でしょう。
炊き込みご飯が美味しいのだそう。
素揚げしてもイケそうな気がするが、売り物になるかは微妙かな?
昔はウオノエが縁起ものでした。
尾頭付きのタイに、ウオノエが付いていたらラッキー。
さらにカップルのウオノエ2匹なら、超ラッキー。
「黄身2つの卵は儲けもの」みたいな理論だ。
そうやって昔から、「なんとな~く存在」していたウオノエ。
最近は口に居候しているのが「不気味」から、「ちょっと可愛い」という声もある。
この感性……僕にはわからないけれど。
まとめ
ウオノエは寄生することを選んだ等脚類。
その範囲はあらゆる魚、あらゆる水域に広まり、成功といえます。
しかし、寄生できるかは運任せ。
運のいいヤツが生き残り、運のいいヤツと出会って繁殖する。
そういう意味ではご利益がありそうですね。
生きたウオノエはエグいですが、しらすなどに混じっているのは全然無害。
僕も暇つぶしに探してみようかなぁ。
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