指などを切って、つい、舐めてしまうことは誰でもすると思います。
口の中に広がる血の味。
あのドロリと生温かい、汗のようなしょっぱさと、ざらついた錆び臭い感じ。
自分の血とはいえ、あまりいい気分はしませんよね。
生物界には「血を好む生物」も多くいます。
あまり人には好かれない連中です。
まとわりつくし、何より「血を吸って生きている」という生態が不気味で、どこか忌まわしい。
人は「吸血」を生理的に嫌うらしい。
一方で、「血を飲みたがる人間」も存在します。
猟奇殺人犯に見られるのですが、一般の人にもたくさんいて、血好きの素振りも見せずに、普通に暮らしているんです。
あなたの隣にもそんな人がいるかも!
ちょっと怖いですが、ほとんどは犯罪とは無縁の善良な人たち。
怖れたり、忌避したりする必要はありません。
ただ、心が血液を欲してしまう。
「ヘマトフィリア」
「ヴァンパイアフィリア」
と呼ばれ、精神病の一つとされています。
生きるための吸血と、嗜好の吸血は別なのでしょう。
「吸血」にはどんな意味があるのか?
なにか魔力のように惹き寄せられてしまう気もする。
怖いけれど、抗えない「吸血」の謎を考えます。
吸血生物はなぜ生まれたのか?
血を吸う生物はけっこういます。
まず、思いつくのは「蚊」。
身近で、吸われたことのない人はいないでしょう。
それとヒル。
水遊び、山歩きの際、知らないうちに吸いついている。
他には、ダニ、ノミ、アブなど。
ムシ系が多いですね。
哺乳類では吸血コウモリ(チスイコウモリ)がいます。
こいつは皮膚を咬み切って、血を舐めるタイプ。
どいつもこいつも数分から数十分ほどもひっついて、血を奪ってゆくのです。
これらの生物はなぜ吸血という道を選んだのでしょうか。
吸血する理由
血液がある種の「精力剤」なのは想像できます。
「マムシやスッポンの血を飲んでビンビン!」
そんな怪しいテレビショッピング的なイメージ。
実際、蚊のメスは産卵のために血を吸います。
といっても、卵のためにタンパク質が必要だからで、子作りに励むためじゃない。
血液は栄養豊富というほどではないですが、生きてゆくうえで基礎的な栄養は含むので、サプリのような意味で摂るのでしょう。
普段、蚊は花の蜜とか吸ってます
吸血とは別に、クモなど体液を吸う者もいます。
この場合、血も一緒に摂る。
「それなら血だけ吸えばじゅうぶんだね」となったのが吸血生物と思われます。
獲物を捕らえて体液を吸うより、血だけもらうほうが楽だからです。
しかも、選択肢は多い。
クモは人間を襲えませんが、蚊は人からも血を頂戴できます。
犬でも猫でも、ネズミでもOK。
狩りもせずに済み、餌はどこからでももらえる。
これは効率がいい!
彼らなりに努力もしています。
気づかれずに取りつく隠密性とか。
血液を凝固させない成分を出すとか。
痛みを与えないようにするとか。
血をガメるのにも、配慮はしてもらっています。(そうなのかな……?)
このように不気味な生態の吸血生物ですが、これが人間の場合、状況がまったく変わってきます。
血を欲する病気がある!?
「吸血人間」。
B級ホラーのタイトルみたいですが、これも実在します。
血を吸う怪物でもなく、「それ以外食べません」という偏食主義でもありません。
「血が好き」「血を飲みたい」となる「血液嗜好」という症状。
ある種の「依存症」であるようです。
なぜ血に魅せられるのか?
血というのは不思議なもので、見たくないと思いながら、目が離せないところもあります。
僕は血が嫌い。
でも、スプラッター映画は見るし、ボクシングの試合で選手が流血すると妙に興奮します。
程度の差はあれ、みんなそういう部分がないでしょうか?
血液はまさに「生命の流れ」。
それが流れ出て、失われてゆく光景は、「生死」という運命を突きつけられるような、他では例えようのない感情が湧くのかもしれません。
また、スッポンの血のように、チカラを得られる特殊な薬のイメージもある。
麻薬に対するイメージに近いでしょうか。
どこか「生物の根源的な部分」に訴えかけるようなところがある。
血液に特殊な感情を抱くのは、生物の本能なのかもしれませんね。
その重症なのが「ヘマトフィリア」と呼ばれています。
「ヘマトフィリア」と「ヴァンパイアフィリア」
精神病とされる「ヘマトフィリア」。
簡単に言えば、血に興奮する症状。
また、血を飲みたい欲求に駆られるのが「ヴァンパイアフィリア」。
「好血」全般を称すヘマトフィリアの一部に、「飲みたい」ヴァンパイアフィリアがいる。
「血の魔性」に魅入られた人といえるでしょう。
紙幅の都合で触れませんが、血液嗜好をカミングアウトしている人、そう思われる人は、想像以上に多いのです。
流血シーンが好きなレベルは普通です。
ヘマトフィリアになると、
常に血のことを考え、
血が見たいと渇望し、
誰かの首筋や手首に咬みついて血を飲みたい衝動が抑えられなくなります。
時に「性的倒錯」も伴う。
血にエロスを感じるわけです。
この辺りからも「本能に触れる」がわかるでしょう。
でも、多くの人は自身の異常性を気にしています。
生活は困難。
麻薬が切れたように血を求め、自傷したり、人の血をもらうことになる。
「好血」「吸血」が忌み嫌われるものだけに、悩みを一人で抱えがち。
「自分は残忍な人間なのか」と自己批判になり、良心の呵責に苦しむことになる。
その苦悩は重度になるほど増すのだろうと思います。
血液に妙な執着心がある人は注意したほうがいいでしょう。
重症になると、他者への被害も大きくなるからです。
ヘマトフィリアの治療法は?
ヘマトフィリア、ヴァンパイアフィリアは、犯罪へも繋がる可能性があります。
例えば、“サクラメントの吸血鬼”ことリチャード・チェイス。
幼少期から動物を殺して血をすすり、成長後には6人を手をかけ、その血を飲んだそうです。
典型的なヴァンパイアフィリアと診断されるでしょう。
ここまでにはならないとしても、「血に興味がある」「血が欲しい」と言うだけで、普通は引かれます。
人間関係が破綻しかねない。
軽度のうちに手を打たないとなりません。
ヘマトフィリアは直るのでしょうか?
その原因は、過去のトラウマ、ストレスなど、精神的なものと考えられる。
実際、治療法というものはなく、精神科などで時間をかけて症状を抑えられるように矯正してゆくしかありません。
治療法の決定打はないのです。
まあ、心を穏やかに保ち、つらい記憶をなるべく忘れるとか。
精神的な問題ですから、心の持ちようで苦労も減らせるかもしれません。
ヘマトフィリアは思うよりも稀有ではないので、恥ずかしがらずに医者に相談することが好ましい。
気をつけたいのは、ヘマトフィリアの自演。
いわゆる「中二病」というやつ。
血の魔性に囚われた……というキャラ設定で、なりきっちゃうケース。
これは熱病みたいなもので心配ない。
でも、そうしたキャラ設定を思い込むことが、本物のヘマトフィリアあるいはヘマトフィリア的な犯罪思想に繋がる可能性もありえます。
心理的な症状は、思い込みで自ら「なってしまう」例もありますから。
思い当たる人は、早めに心療内科の受診をしたほうがいいでしょうね。
まとめ
吸血生物とヘマトフィリアについて、簡単に説明をしました。
しかし、吸血生物の進化には謎が多い。
ヘマトフィリアの心理も複雑で、理解は難しいのが実情。
説明の足りないのはご容赦ください。
ヘマトフィリアが犯罪に繋がることはありがちです。
それでも、多くの罹患者は悩みながら、生活しているそうです。
妙な偏見は持たず、理解してあげてほしい。
愛情や友情が、苦しみを和らげることってありますからね。
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