マッコウクジラが船を襲撃!人食いクジラは存在するか?

クジラの画像 水生動物

マッコウクジラは現存する最大の肉食動物です。

深海で大イカとバトルするような戦士。

頭部には吸盤による反撃の痕がびっしりです。

無数の傷痕が「歴戦の猛者」であることの証しといえる。

でも、あまり「凶暴」な印象はないんじゃないでしょうか。

クジラは知能が高く、温厚で、「優しい巨人」という雰囲気。

クジラが人を襲った話も聞きません。

しかし、クジラが害を与えた例もいくつかあるんです

例えば、1820年の「エセックス号事件」

捕鯨船がマッコウクジラに襲撃され、悲惨な結果となりました。

「優しい巨人」どころか「荒ぶる海獣」ですよ。

エセックス号はなぜ襲われたのでしょうか?

マッコウクジラは優しくないなのか?

船を襲ったのは、食べるのが目的だったのか?

事件を追いながら、マッコウクジラの凶暴性が事実なのか探ってみたいと思います。

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クジラの襲撃!エセックス号事件とは?

アメリカ文学の傑作の一つ『白鯨』

1851年にハーマン・メルヴィルが著した長編小説。

白く巨大なマッコウクジラ「モービーディック」と、
そのモービーディックに片足を食いちぎられ復讐に燃える「エイハブ船長」との死闘を描いています。

ちなみに死闘の舞台になったのは、日本近海となっている。

「江戸時代に日本の沖合で壮絶な戦いが……」

なんて妄想しちゃいますが、所詮は作り話でしょ。

と思いきや、この小説、実話が基になっています。

それが「エセックス号事件」なのです。

200年前の捕鯨

19世紀は盛んに捕鯨が行われていました。

目的は「鯨油(げいゆ)」の獲得。

クジラの脂肪や内臓を原料にした油です。

まだ石油が手に入りにくい時代に、
照明や工業油や食用油などに広く使われていました。

現在の石油と同じくらいの必需品。

なので、捕鯨は一大産業。

カネになる仕事ってやつですね。

エセックス号も捕鯨船として、一獲千金を狙う船乗りたちを乗せて海へ出たのでした。

マサチューセッツ州・ナンタケット島。

メルヴィルが「世界の海はナンタケットのものだ」と記すほど、当時世界最大級の捕鯨基地でした。

アメリカ東部のこの島を、エセックス号が出港したのが、1819年8月。

船は全長27mで、乗組員は21人。

目的地はクジラの多い南米の西側沖。

予定ではクジラを狩りまくり、2年半ほどで帰港するはずだったのですが……。

いくつものトラブルもありながら、船は目的地に到達します。

クジラを見つけたら、船に備え付けの4隻の小舟(全長約8m)で追い回し、銛を打ち込んで仕留めるのです。

南米沖はクジラが多く、成果も上々。

船員は満足していました。

当時の捕鯨はかなり荒っぽいものでした。

目的は鯨油なので、それを採取したら残りは投棄。

日本のように、骨も皮も余さず利用するなんてしません。

いるだけ狩って、使える所だけ手に入れたら、後はポイ捨て。

クジラがいなくなったら、他の場所へ移る。

それが欧米の捕鯨でした。

狩猟民族の白人らしいやり方です。

きっちり使い切る日本のほうがクジラへのリスペクトを感じるのは、僕が日本人だからでしょうか。

どちらにしても、それは「乱獲」に近いレベルだったでしょう。

巨大マッコウクジラの攻撃

1820年の11月。

エセックス号は新たな漁場を求めて、移動します。

モアイで知られるイースター島の、北数千kmの辺り。

陸地からはるかに遠い絶海です。

そこで船員はオスの巨大なマッコウクジラを発見します。

証言によると体長は26m。

普通マッコウクジラのオスは16~18m。

20m以上の個体もたまにいて、26mだと相当な大物といえます。

そのマッコウクジラが、なんと船に向ってきたのです。

マッコウクジラの特徴は角ばった頭。

いかにも頭突きが痛そう。

大型のトレーラーが突っ込んでくるようなものです。

しかも、そいつは船と同サイズ。

まるで狩られた仲間の恨みを晴らすように、エセックス号に体当たりしてきた。

まず、船の横っ腹に一撃。

さらに下から回り込んで、船首部分を破壊。

尾を打ちつけ、暴れる波に叩かれ、エセックス号の傷はどんどん広がってゆく。

やがてクジラは去ります。

幸い襲撃で船員に犠牲は出ませんでした。

悪夢が終り、ただ絶海で船を捨てざるを得なくなった現実だけが残ったのです。

船員たちの過酷な運命

その後、エセックス号の船員は、凄惨な遭難を余儀なくされます。

3隻の小型船に分乗し、当てのない陸地を目指す。

途中、船は離れ離れになり、それぞれ別な運命を辿ります。

衰弱しきった状態で助けられた者。

遭難中に命を落とした者。

カニバル(人食い)も起こっています。

「もう誰かに死んでもらって食うしかない」と、くじ引きで決まった運命に従った者もいました。

エセックス号事件は、クジラ襲撃の後の話のほうが悲惨です。

ここでは詳しく触れません。

ボリュームがありすぎるし、この記事の主題はマッコウクジラの攻撃性なので。

詳細を書いた記事がネットにたくさんあります

捕鯨船に体当たりしてくるとは、なかなか強気だと思いませんか。

優しいクジラのイメージ崩壊ですよ。

次章でその凶暴ぶりを検証してみましょう。

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人食いマッコウクジラの真実

マッコウクジラは大きさ15~20m超。

体重は40tから、大物なら80tに達します。

メスはもう少し小さい

70年は生きると言われ、モービーディックのような白く大きな個体は、長寿の老クジラでしょう。

2000mも潜水でき、2時間近く潜っていられる。

下顎には10cmもあるような牙が並び、深海の大イカの他、エイやサメやタラなども捕食します。

COLOSSAL SQUID (giant squid ) Vs. SPERM WHALE "EPIC BATTLE"

「ハクジラ」という種で、プランクトンを濾して食べる「ヒゲクジラ」より攻撃性が高い。

「殺し屋」って雰囲気プンプンですよ。

この凶獣は人も襲うのでしょうか?

マッコウクジラは凶暴なのか?

エセックス号を壊したクジラ。

「仲間の仇討ち」「仲間を守るため」に思えます。

実際にシャチは特定の人間を恨み、攻撃することもあるらしい。

クジラがそうしても不思議はありません。

捕鯨船に体当たりをするクジラはときどき見られたようです。

昔は木造船ですからね。

クジラも当たりやすかったでしょう。

エセックス号が破壊された頃、現場の海域には「モカ・ディック」と呼ばれるマッコウクジラがいた記録が残っています。

マッコウクジラは普通黒ですが、モカ・ディックは白っぽかった。

もちろん、モービーディックのモデルです。

モカ・ディックはよく船に近づいてきたそうです。

そして、攻撃されると暴れて反撃したらしい。

エセックス号を襲ったのがモカ・ディックだったのかは不明です。

ただ、捕鯨船が「敵」に見えていたのは確かでしょう。

クジラにすれば正当防衛といったところ。

マッコウクジラが人を襲った事例は、ほぼないのです。

人食いクジラは空想の産物?

事故は時々あります。

ダイバーが挑発したり、ホエールウォッチングの客が刺激したりすると、「おい、やめろ!」と警告的に向かってきたり、ヒレで叩いたりはするようです。

小突く感じでしょうが、巨体なので痛い目は見る。

また、「じゃれる」ような攻撃もあるらしい。

ネコパンチでもクジラがやれば大迷惑になる。

エセックス号事件でも、攻撃ではなく「遊び」の範疇だった可能性があります。

誤って人を食べてしまったこともあるんです。

でも、飲み込んではしまいません。

吐き出してしまう。

スイカの種みたいなものなのか……。

どうやら人食いクジラは存在しないようです。

しかし、大きく、時には荒っぽいクジラが、船乗りたちの脅威であったことは想像できます。

現在の船でもクジラと衝突し、航行不能になることがある。

昔の船ならなおさらでしょう。

衝突で海に投げ出され、戻れなかった人もいたと思う。

やはり、クジラは「怖い動物」なのです。

あの大きさだけで、じゅうぶんモンスター。

そこにエセックス号の事件や、モカ・ディックのような存在。

『白鯨』などのフィクションのイメージも加わる。

そうやって「人食いクジラ」が「いるような」気がするだけなのでしょう。

最近は、日本各地でホエールウォッチングできます。

クジラも手軽に遭遇できる、「癒し系」動物といった扱い。

それでも、怒らせたら怖い動物には違いない。

もちろん業者は安全に配慮もしているでしょう。

クジラを見るときは、そんな怖さも感じながら、あのパワフルな巨体の雄々しさを楽しんでほしいものです。

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まとめ

マッコウクジラは世界中にいます。

地球の海はほぼ生息域。

そんなクジラが人を襲うとすれば、けっこう恐怖です。

エセックス号の悲劇は、その教訓といえるでしょう。

でも、襲撃は稀なこと。

こちらが適度に距離を保ち、何もしなければ、害はない。

意味もなく攻撃はしないのです。

強く、大きなクジラ。

近頃のキナ臭い世界情勢と比べれば、人間ほど好戦的ではない……のかな。

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