終戦後間もない昭和20年代。
南海の島々で、別な戦いが起こっていました。
敵は「ドブネズミ」。
たかがネズミと侮れません。
大軍を擁し、甚大な被害を及ぼしていたのです。
「このままでは島を捨てて逃げるしかない!」
島民はネズミとの対決を決定。
あらゆる手段を用い、ネコの軍団まで投入。
今も語り継がれる「ねずみ騒動」の勃発です。
ネズミ軍VS人間・ネコ連合軍。
その顛末と、意外な終戦についてお話しします。
ドブネズミが大繁殖!
1949年(昭和24年)。
愛媛県の西に浮かぶ「戸島」で、畑が荒らされます。
犯人はネズミ。
まるでイナゴのように集団で農作物を貪り、麦、大豆、トウモロコシなどが壊滅的な害を受けたのです。
ネズミ被害は戸島だけに留まりません。
日振島など近隣の島々に拡大し、島民は大ダメージ。
ネズミの増加には理由がありました。
島はネズミの楽園だった!
戦争が終わって数年。
ようやく人心も落ち着き、生産力も回復してきました。
当然、それを狙うネズミも増えるわけです。
戸島などがある宇和海は、愛媛県と大分県の間。
温暖で、段々畑が広がっている。
石垣で階段状の土地を作り、各段を畑や田んぼに利用します。
その石垣の隙間が、ネズミの巣にうってつけだったのです。
さらに、山林を潰して段々畑にしたため、
ネズミの天敵であるイタチやヘビもいなくなっていた。
食料があり、住処があり、敵はいない。
ネズミにとって楽園です。
ねずみ算式ネズミの出産サイクル
元々、ネズミは繁殖力が強い。
「ねずみ算」という言葉もあるくらい。
実際、ネズミは一度に10匹ほどの子を産みます。
出産した母ネズミは、またすぐに妊娠できる。
年間に5~6回も生みます。
生まれた子も3ヶ月もすれば繁殖できる。
ドブネズミの寿命約2年とはいえ、そんなサイクルでネズミが増えたら……。
小島はネズミに覆われちゃいますよ。
被害の島では、冗談ではなく
「石を投げたらネズミに当たる」ような状況。
推定ですが戸島(面積2.7㎢)には50万のネズミがいたといいます。
当時の戸島の人口は2千500人ほどでした
農業被害はもちろん、夜は屋根裏を駆けまわり安眠妨害。
人が咬まれることもしょっちゅうです。
殺鼠剤を使ったり、罠を仕掛けたりしましたが、焼け石に水。
被害は一向に減らなかったのです。
島民は本土の役所にも訴えました。
もう行政を動かさないでは、解決しません。
「このままでは人がネズミに追い出されてしまう!」
ところが、役所はすぐに動かない。
「たかがネズミでしょ。大袈裟に騒ぎすぎなんだよ」
と信じない。
それでも、「まぁちょっと見てくるか」と島を視察。
「マジでした」と事態の深刻さを知ったのです。
「ねずみ騒動」その戦いと終焉
ネズミの数は想像を超えたものでした。
行政も手を焼きます。
50万の神出鬼没の小動物ですからね。
なかなか駆逐できません。
そんなこんなで数年が経ち……。
「もう、人間の手におえる敵ではない」
島は援軍を迎え入れることにしました。
イタチ・ヘビ軍の大失態!
ネズミが増えた理由のひとつが「天敵の不在」。
ネズミ・キラーのイタチとヘビがいなかったからです。
そこで招集されたのが、イタチ156匹とヘビ191匹。
ヘビは毒性の低いシマヘビやアオダイショウだったと思います。
50万の敵に対して、いささか頼りない戦力ですが、どちらもスゴ腕のネズミ殺し。
小島を舞台に、両者激突です。
ところが、この援軍は名前負けしていました。
イタチといえば、ネズミ100匹くらい余裕で血祭りにあげるイメージですが(僕のイタチのイメージは、ほぼ“ガンバの冒険”なので)、そこまで凶暴ではない。
あまりネズミを狩らず、ネズミ用に仕掛けた殺鼠剤入りの食料に手を出し、無駄死にを遂げるイタチが多数。
自ら地雷を踏みに行ってどーする!
ネズミの多さにウンザリしたのか、得意の水泳で島から逃げ出すのも多かった。
一方のヘビ軍は?
ヘビはネズミをよく食べてくれました。
しかし、ヘビは燃費のいい動物。
一匹食べれば、しばらく生きてゆけるから、疲れる狩りは最低限のみ。
変温動物なので、体温が上がることはなるべくしないのです。
その間、ネズミは増え続ける。
次の攻撃まで時間がかかりすぎる欠陥兵器ですよ。
「こいつらはアカン……」
ついに最終兵器を投入です。
期待を託された4千匹の子ネコ
ネズミ捕りなら、やっぱり「ネコ」。
捕食だけでなく、遊びでもネズミを狩る最強の敵です。
昭和34年から3年で、延べ4392匹の子ネコが島に送られたのです。
「大人のネコじゃないんだ?」と思いますよね。
「子ネコは“仕込める”から」というのが理由。
ネズミ討伐部隊ですから、「ネズミ捕りマシーン」のようになってもらわないと困る。
スレた大人ネコより、まだ無知な子ネコがいいと考えられた。
1匹20円という謝礼もあったため、各地から子ネコが集められたのです。
小学校で出陣式も行われました。
「お国のために……」じゃありませんが、「頑張って戦ってこいよ!」という激励でしょう。
港へ向かうネコたちを、道の両側に整列した子供たちが見送る。
平和なのか、物々しいのか、よくわからない光景です。
満を持して投入されたネコ軍団。
これがまたもや大失敗します。
ネコ軍団の敗北
子ネコ軍が相手にするドブネズミ。
大きいのは30cmにもなる。
都会の巨大ドブネズミも問題になってますよね。
片や、かわいい子ネコたち。
普通に、ドブネズミ軍のほうが怖いんですけど……。
子ネコに囲まれるって
むしろご褒美でしょ
これが大人ネコなら「なんだネズミか」と仕事してくれたかもしれません。
でも、世間知らずの子ネコは、すっかりビビッてしまった。
しかも、宇和海の島々は「いりこ」、つまり「煮干し」も名産品。
浜では小魚を干していました。
子ネコにしたらドブネズミを捕るより、
干し魚を掠め取るほうが楽ですから。
結局、ネズミの敵にはなってくれなかったのです。
これが世にいう「ねずみ騒動」。
島々ではネズミがのさばり、
島民もどんどん離れていった。
それから数年後。
ねずみ騒動は収束します。
「ねずみ騒動」の終わりと反省
皮肉なことに、騒動は「島民の減少」で終わります。
・ネズミに困った島民が島を出る。
・島の産業が衰退する。
・ネズミの食料が足りなくなる。
・ネズミが島から出てゆく。
の流れ。
「人とネズミの発展は比例している」のがよくわかります。
ネズミのせいで島が衰退すれば、自然にネズミも減るしかないのです。
だから、ネズミが勝利したともいえません。
今だって、ネズミが元気なのは都市部ですもんね。
人のいる場所にネズミあり、です。
最近は野良ネコも少ないので、ネズミ被害は増える一方。
ねずみ騒動、またどこかで起こるかもしれません。
まとめ
ネズミはもっとも繁栄している哺乳類です。
この小動物と、人間の戦いは、繰り返されてきました。
宇和海の「ねずみ騒動」もそのひとつ。
ネズミが暮らしやすく、大繁殖をした。
人が打つ手はことごとく失敗する。
(日本人って戦争が下手なんじゃなかろうか……)
滑稽話のようですが、島では死活問題だったのです。
結局、ネズミも島の衰退で逃げ出します。
しかし、驚異的な繁殖力を持つネズミ。
いつどこで同じことが起きるやら。
今のうちに、ネコを鍛えておいたほうがいいと思うんですが。
コメント