昔、『えびボクサー』という映画を観ました。
人間サイズのエビを見つけた主人公が、エビにボクシングをやらせて大儲けを企む、しょーもないB級映画。
最後の別れのシーンでちょっと泣いてしまったのは僕の黒歴史だ。
この映画に出てくるのは、エビではなく『シャコ(蝦蛄)』。
日本中の海でも見られる、グレたエビみたいなやつ。
寿司ネタにもされ、「安っぽいエビ」の印象でわりと知られているかもしれません。
でも、エビとは似て非なる生き物。
それどころか、全生物の中でもかなりハイスペックなのです。
さらに、映画の基になった驚異的なパンチ力。
速すぎて「海水が沸騰する」「腕が光る」というマンガみたいな伝説があるほど。
海の光速パンチャー・シャコについてまとめました。
シャコとエビは違う!
シャコは浅瀬で見られる甲殻類です。
エビやカニと同じグループですが、
シャコだけ一属で「口脚目(こうきゃくもく)」にまとめられています。
エビもカニもヤドカリも「十脚目」という大グループ。
そこから離れ、唯我独尊みたいに独立しているのがシャコなのです。
海の甲殻類の「鬼子」って感じ。
よく見ると、シャコとエビはまるで違います。
甲殻類が持つハサミは、シャコにありません。
代わりに腕が鎌状になっていて、より捕食者らしい雰囲気。
タガメなどもそうですね。
英語の『Mantis Shrimp(カマキリエビ)』は、この腕が由来でしょう。
シャコは完全な肉食。
イソメやゴカイ、魚に貝、仲間の甲殻類さえ襲うチンピラ体質。
貝やカニの固い防備を破壊するのが、例のパンチです。
エビはこんな荒っぽい狩りはしません。
攻撃性は人間が相手でもお構いなし。
シャコパンチで指を骨折した人もいる。
このパンチが伝説級の凄さなのです。
マンガすぎる!パンチ力と視力
シャコパンチのスピードは80km/hといわれます。
これはプロボクサーの倍という速度。
カニの甲羅に穴が開き、貝殻など粉砕する威力です。
シャコの大きさは15cm程度。
40cmくらいになる種もいます
映画のような人間サイズなら、コンクリートの壁も突き破るといわれるほどのハードパンチ。
その仕組みは弓矢方式だそうです。
シャコパンチの仕組み
カマキリの腕のような「捕脚」は、拳になる前節と、大きな後節があります。
後節には窪みがあって、前節は普段その窪みに嵌って折りたたまれています。
窪みはストッパーの役割もある。
その射程距離に獲物がいたら……。
前節にパワーを溜めて、凹みから一気に放つ。
前節は弾かれたように前へ撃たれるのです。
デコピンに近いかもしれない。
でも、貝にデコピンしたら指も痛いですよね。
シャコの前節は繊維がらせん状になっていて、ショックが分散される構造なのです。
それでも、腕を痛めるシャコもいるんだとか。
ハードパンチャーらしい悩みでしょ。
シャコパンチ伝説は本当だった!
シャコのパンチは「光る」「水を沸騰させる」ともいわれます。
「光のスピードで繰り出したパンチが、水との摩擦で熱せられる」
僕はなんとなくそう思っていたけれど、あまりにもマンガ設定すぎる。
でも、似たようなことが本当に起こっているそうです。
シャコパンチで周囲の水が高速で動くと、水圧差で気泡が発生するのです。
これは「気化」なので、「沸騰」になる。
「キャビテーション」といいます
この気泡が割れると、光と熱が放出されて光るというわけ。
腕が速すぎて光ってるんじゃないんですね。
パンチの衝撃は「当たるとき」と「離れるとき」の2段階。
威力はファーストインパクト(当たったとき)よりセカンドインパクト(離れるとき)が強い。
一発に見えて実は二発というのが達人っぽい。
これで貝殻を破壊。
下手に手を出すと骨や爪も割られ、
水槽に入れるとガラスにひびを入れるというのも事実です。
武勇伝が生まれるのも納得。
シャコは凄い目も持っています。
シャコの目の感度は人間の10倍?
シャコは巨大な目の持ち主です。
Y字型に飛び出した先に、イヤホンの耳に入れるところみたいな複眼がついている。
見るからに視力はよさそうです。
実際に目はいいのですが、その「目がいい」は想像以上。
人間の10倍以上の色を見分けられるといいます。
その理由は「円偏光が見える」から。
偏光とは光が放出している規則的な磁場で、円偏光は光の回りを回転しているもの。
光が「矢」だとしたら、その周囲の空気の流れまで見えているようなイメージでしょうか。
「光が出す光」というか「光のオーラ」みたいなものが見えている。
円偏光を見る能力は、シャコにしかありません。
「だけど、それってスゴイの?」とも思う。
「円偏光を見れる唯一の生物」は凄そうですが、他の生物が持ってないってことは「意味のないスキル」ではないのか。
シャコがどうして円偏光まで感知できるようになったのかは不明です。
獲物を高感度で探すためか。(獰猛な捕食者ですからね)
あるいは、仲間を認識しやすいようになのか。(攻撃的ボクサー同士で避け合うとか)
エビと似て非なるのも、地球外から来たからなのかも。
「思ったよりも見えていない」という意見もあるのですが、他者に見えないものが見えるのもマンガチック。
無意味にスゴイ生物なんですね。
そんなシャコも、日本では寿司ネタにすぎないんですが……。
「シャコを食べる」と「シャコに食べられる」
シャコはエビ・カニ以上に昆虫色が強い。
そのせいか、食べる国は多くありません。
日本を含む東アジアか、スペインやイタリアなど海産物好きの国くらい。
どこにでもいるのに、食材としては不人気です。
シャコとアナジャコ
日本で食べられるのは「シャコ」と「アナジャコ」。
アナジャコは「シャコに似たエビ」で、シャコじゃないです。
でも、「シャコ」として出されます。
なんでも名前が「~シャコ」というのがシャコ目で、
アナジャコのように「~ジャコ」と濁るのはシャコ似のエビ目だそう。
巣に習字用の筆を突っ込んで引き上げる「アナジャコ釣り」は有名です。
筆を異物だと思い、絡んでくる。
シャコもアナジャコも、味は「淡白なエビ」って感じ。
モサッとした食感はカニにも似ています。
寿司の他、天ぷら、刺身などで食べられるので、エビと一緒ですね。
ただ、広く流通しているってほどでもなく、たまに見かけても希少な高額食材ってわけでもない。
おかげで、どうしても「安っぽいエビ」扱いになる。
シャコが水死体に群がる噂
「見た目がキモくて嫌」という人もいます。
確かに、寿司のシャコは腹筋が感じられる気はする。
もうひとつには、
「シャコは水死体を食う」
「シャコの腹に髪の毛が入っている」
などと、流布していることも原因でしょう。
これは事実?
シャコに限らず、海の甲殻類は死骸も食べる掃除屋です。
なので、水死体にも群がることはあります。
でもこれはエビ、カニ、魚も同じ。
シャコだけの話じゃありません。
まあ、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、機会があれば一度ご賞味ください。
まとめ
シャコはかなり興味深い生き物です。
水を沸騰させる輝くパンチ。
無駄に高感度の目。
能力高いのに、死骸も漁るハングリーさもある。
天性のボクサー気質。
『えびボクサー』なんてアホっぽい映画にもなるわけです。
惜しむらくは、エビに似すぎていることでしょうか。
どうも比較されて、不遇な感もする。
我が道を行くシャコには、人の評価などどうでもいいことかもしれませんが。
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