ブタのようで、ゾウのようで、アリクイのようにも見える。
パンダにも見えなくない。
僕の「バク」の印象です。
「夢を食べる」ことで知られる、あのバクです。
夢は食いませんが、実在する草食動物でもある。
「バクって本当にいるの?」
そう考える人もけっこういるかもしれません。
リアルのバクは、とても影が薄い。
・特に人気があるわけでもない。
・他の動物に似ていて、際立った特徴がない。
・夢を食べる設定で、実在感が乏しい。
・数がおらず、目立たない。
地味なのは、こんな理由が考えられます。
よくわからない動物の一つではないでしょうか。
動物としての「バク」、夢を食う架空生物としての「獏」。
バクとはどんな動物で、夢食いはどこから来たのか?
今回はバクのお話です。
夢を食べる妖怪「獏」の由来
この記事では
「実在する動物」は「バク」、
「夢を食べる霊獣」を「獏」と書いています。
「バク」と「獏」の違いを覚えておかないと、話が進まないので、最初に片づけておきましょう。
想像上の獏のプロフィール
皆さんはバクをどんな姿と思い浮かべるでしょう?
鼻がやや長く、牙がある。
体高の低いゾウ、派手なイノシシみたい。
これらは伝承の「獏」のイメージです。
もともと獏は中国産の空想動物。
龍や麒麟などと同じ
「縁起のいい霊獣」「神聖な幻獣」
といった存在です。
キリンも実在の動物と、キリンビールに描かれている麒麟があります。
バクもそれと一緒。
ただ、キリンはメジャーなので、違いはわかる。
キリンといえば、まず首の長いキリンですよね。
一方のバクは露出がイマイチで、夢を食う獏が有名なため、動物バクはピンとこないのです。
言い伝えの獏は「ゾウの鼻、サイの目、体がクマで、尻尾がウシ、足はトラ」という動物。
中国はこういうキメラな霊獣が多い。
麒麟も龍と鹿とライオンを合わせたような姿だし、シフゾウ(四不像/スープーシャン)も馬・鹿・ロバ・ラクダの合成生物という設定。
獏などは「神様が他の動物の余り物を寄せ集めて作った」と、あんまりな秘話まである。
霊獣なのに扱いが粗末……
しかし、夢を食べるわけではないようです。
なぜ獏は夢を食べる?
獏は「邪気を払う」能力があるらしい。
獏の皮で作った布団や座布団を使えば、病気にならず、不運に見舞われない。
もちろん、獏は空想だから、ブタの皮なんかを「獏の皮ダヨ」と売っていたんでしょうけど。
アマビエみたいなものです。
その獏が日本に伝えられると、「悪夢を食べる」になった。
「邪気払い」と「布団」が一緒になって、「悪い夢を食べてくれる」と曲解されたんじゃないかと思います。
・悪夢を見た朝、「獏よ食え」と言えば、同じ夢を二度と見ない。
・枕の下に獏の絵を置けば、吉夢を見られる。
といった噂が定着した。
獏を模した枕も売れました。
最近では逆に「獏は悪夢を見せる魔物」とも捉えられています。
この性質はフィクションからでしょう。
夢の中という、現実的な抵抗ができない世界を支配する強ボスのポジション。
エルム街のフレディみたいなキャラ付けにされてしまった。
言うまでもなく、実在のバクにそんな能力はありません。
草を食べ、人の目にも触れない。
「森の隠者」といった感があります。
バクはどんな動物?
僕は動物のバクをモデルに、獏という霊獣ができたと思っていました。
長めの鼻が、夢を掃除機みたいに吸い込むイメージになったのだと。
ところが、霊獣の獏に似ている動物だから「バク」らしい。
架空の動物に、似た動物が本当にいた。
これはちょっと偶然すぎる。
おそらく、希少な動物バクの噂や、皮とか骨とか不確実な痕跡があり、そこから霊獣の獏がイメージされ、その後生きたバクが知られるようになった、ということだと推測します。
世界にたった4種しかいない!
バクは世界に4種しかいません。
中南米に「ベアードバク」「アメリカバク」「ヤマバク」。
タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシアにいる「マレーバク」です。
中国に伝わったのはマレーバクでしょう。
人間で言うと脇の下から尻にかけての部分が白く、あとは黒い。
背中にお釈迦様を乗せるので、その部分だけ日焼けしなかったなんていわれています。
獏の伝承に、パンダとゴッチャになっているらしい箇所も見受けられるので、同じカラーリングのマレーバクが霊獣のモデルの可能性が高いと思う。
どのバクも体長2mくらい。
体毛は短く、ブタにも見える。
子どもの頃はイノシシのような「ウリ坊」なのに、成獣になると色変わりします。
上唇が伸び、鼻と一緒になっている。
その鼻で、草を引き寄せたりできます。
体重は200kgから400kg近くもある。
思ったより「大きい!」と感じるでしょう。
ヤマバクだけは体長180cmほどで、体毛が長めです
どの種も数は少なく、絶滅が危惧されています。
攻撃性はまったくない草食動物。
臆病で、茂みや水中にすぐ隠れ、夜行性。
その上少数なのだから、目立つわけがありません。
昔はUMA・未知動物扱いだったと思います。
ツギハギの伝聞を、空想の獏にして、やがて実物が確認されるパターンだったんじゃないでしょうか。
そんなバクはウマ・サイと共に「奇蹄目」の動物です。
少数派「奇蹄目」は変なヤツ?
草食の哺乳類の多くは「偶蹄目」です。
蹄が2つに割れている動物。
「ウシ目」とも呼ばれ、代表種のウシの他、シカ、ヒツジ、ヤギ、ブタ……。
キリンやカバまで含まれ、広い意味ではクジラまで入る大所帯です。
“鯨偶蹄目”と分けられています
片や奇蹄目はウマ(ロバ、シマウマなどを含む)とサイ、そしてバクの3種だけ。
足部分が、ウマが中指一本、サイが指三本、バクは後肢が三本と、使っている指が奇数だから奇蹄目。
ほとんどの哺乳類は指で立っているんです。
奇蹄目では、ウマしか繁栄してないので、そういう意味でもバクは希少動物。
さらに、同じヒヅメ持ちでも、奇蹄目と偶蹄目はあまり縁がない。
奇蹄目はむしろ、ネコなどに近い動物群で、これも変わっています。
バクはこのように、かなり珍しい存在。
動物園で出会っても「なんだバクか」と素通りせず、じっくり鑑賞してほしい動物ですね。
まとめ
バクといえば「夢を食べる」。
でもこれは「妖怪」「霊獣」の獏の話。
不気味でありながら、どこかロマンチックな「夢食い」能力が先行して、本家の動物バクは実在もあやふやな印象です。
動物バクは絶滅危惧種で、目立たぬ存在。
伝承の獏にキャラを持ってゆかれるのも仕方ない。
しかし、動物バクもけっこう不思議な哺乳類。
姿も他の動物の寄せ集め感が強く、伝承になるのも頷けます。
もうちょっと注目されてほしいですね。
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