人間の身近にいる生物のひとつにカイコがいます。
かつて養蚕で栄えた日本では、「おカイコ様」と神格化される稀有な昆虫ですね。
カイコが幼虫で、成虫はカイコガという蛾です。
このカイコ、生活力がまったくありません。
どういう進化をすればカイコになるのか、さっぱりわからない昆虫だって存知でしたか?
さらに、カイコの兄ともいえるクワコという虫もよくわからない。
カイコとクワコはどこで運命を分けたのでしょう。
カイコは屋内にしかいないって本当?
カイコといえば、養蚕をやる家で飼われているイメージが強いでしょう。
古い民家の屋根裏部屋で、桑の葉をパリパリ食べている感じで。
最近ではカイコをペットにする人もいるそうです。

ペット産業はどこまで行っちゃうんだろう……
では、ペットや家畜になっていない野生のカイコはどこにいるか?
山に行けばいそうですが、実は野生にカイコはいません。
この世に存在するすべてのカイコは、すべて人間に飼われているカイコです。
ペットのカイコが逃げて、野良カイコになることもない。
カイコには自然下で生きてゆく能力が皆無だから。
カイコも、成虫になったカイコガも、人間に飼われていないと生きてゆけない。
幼虫は風が吹けば枝や葉から落ちちゃうし、成虫は羽があっても飛べない。
とにかく貧弱貧弱ゥーな生物なのです。
このようにカイコは人に飼われることに甘んじて、温室暮らしをすることを選んで進化しました。
いや、全部人任せという、清々しいほどの退化というべきか。
それで生き延び、人間社会で繁栄しているのですから、ひとつの戦略ではあるんですが。
でも、カイコだって最初から人間に飼われていたわけはありませんよね。
元々は自然界にいて、生きて普通に繁殖していたはず。
その頃のカイコはもっと逞しかったんじゃないのか!
どこで道を踏み外したんでしょう?
カイコはクワコが品種改良されたのか?
ところで、カイコのようなイモムシを山で見た経験はないでしょうか?
色の茶色っぽい、汚いカイコです。
カイコがグレたみたいなやつ。
それはクワコという、カイコにそっくりな別な虫なんです。
カイコもカイコガも色白ですが、クワコとその成虫のクワコガは茶色や灰褐色で、ダークカイコみたいな風貌です。
カイコは、クワコが人間に飼われて品種改良されたものと考えられています。
クワコとカイコはこんなに違う
紀元前2500年頃――
中国に黄帝という帝がいました。

ちなみに『ユンケル黄帝液』はこの人の名前に由来します
黄帝の后の西陵氏が繭を採るため、クワコを飼い始めたのが最初で、西陵氏の中国読みの音がSilkの語源になったという有名な話ですね。
クワコが家畜化されてカイコになったというのが定説です。
それなら自然界にカイコがいないのも納得できる。
ところがです‼
カイコとクワコ、性格がまるで違う。
クワコはかなりオラオラな性格で、よく動くし、攻撃的だし、群れたりもしません。
「人間なんぞに懐くもんか。ケッ」みたいな昆虫なのです。
学者も「クワコを飼い慣らすのは不可能」と言っているくらい。
たかだか数千年でカイコのように更生?するとは考えられないんですよ。
姿形からカイコとクワコが兄弟のような近種であることは間違いありません。
でも、クワコがカイコになったという説には疑問大アリです。
どういうことなんですかね?
カイコの始まりの可能性

西陵氏がヤンチャなクワコを温厚なカイコに変えたとしたら、それはマジックです。
もしかしたら、たまたまおとなしいクワコの突然変異がいて、それに西陵氏が目をつけたのかもしれない。
突然変異は弱く、自然では生き延びるのは難しいのですが、たまたま人間に飼われるという幸運に恵まれて、ぬる~い生き方をしているうちに色白にもなって、カイコになった。
人間も外出せず、甘やかされていれば、肌が白っぽくなりそうだし。
もうひとつ考えられるのは、未知の昆虫がいた可能性です。
クワコとは別に、もっとカイコに近い昆虫Xが自然界にいた。
西陵氏が飼ったのは昆虫Xで、それがカイコとして生き延びている。
野生の昆虫Xは滅んだ、あるいは未発見というパターンです。
こっちの説のほうが僕的には好きなのですが、昆虫Xが見つからないとただの妄想ですね。
もちろん、西陵氏や古代の人が想像もつかないやり方で、クワコをカイコに変えたことも否定できません。
それがどんな教育的指導だったのかも少し興味があります。
出自が不明な、謎の昆虫カイコ。
学者の悩みなどどこ吹く風で、まさに家畜の繁栄を謳歌しているのでしょう。
まとめ
シルクを作るという一芸で、人間に保護されるカイコ。
「芸は身を助ける」の見本ですね。
実際に見るとわかるのですが、カイコは妙な可愛さがあるのに、クワコは攻撃的でどこか憎たらしい。
兄弟のような関係なのに、選んだ道はまったく違うのも面白いです。
昆虫界の『カインとアベル』ってところでしょうか。
シルクを身に着けるとき、この生き方の違う虫を、たまには思い出してあげてください。
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