深海の巨大ザメ――
ワクワクする響きです。
その言葉に当たるサメとなると……。
オンデンザメになるでしょう。
体長は4~5m。
最大で7mほどにもなるという肉食のサメ。
サメのスター・ホホジロザメにも引けを取りません。
ただ、深海のサメなので露出はイマイチ。
目立たない、地味なサメという位置づけでしょうか。
そのオンデンザメ。
別な意味で近年、脚光が当たっています。
「500年生きる!」
その(馬鹿げたほどの)長寿が注目されているのです。
なぜ、そんな長生きできるのか?
その謎を解けば、人間も数百年生きられるかも。
そんな期待もしちゃいます。
オンデンザメにはどんな秘密があるのでしょう?
オンデンザメを調べてみたら……
オンデンザメは北の海に生息しています。
日本近海にもいるんです。
さらに北極の近くだけにいるのが仲間のニシオンデンザメ。
長寿が判明したのは、このニシオンデンザメです。
今回は寿命がテーマなので、記事内のオンデンザメは、ニシオンデンザメと思ってください。
両者は生息域や背びれの位置などが違いますが、
生態的にはあまり変わらないと考えられています。
が、不明点も多く、はっきりしないのです。
なんと500歳!驚きの調査結果
深海のオンデンザメは馴染みの薄いサメです。
肉食で、体長は最大で7m。
もっと大物がいる可能性もある。
ホホジロザメに劣らぬ存在感。
人間と並ぶと、その大きさがわかりやすいですね。
でも、知名度、露出度はホホジロに敵いません。
そんなオンデンザメが俄然注目されたのは10年ほど前。
「500年生きている!?」
そんな調査結果が出たのです。
コペンハーゲン大学がある個体を調べたところ
「392±120歳」とわかった。
最大値で512歳!
織田信長より先に生まれてる。
関ヶ原の合戦まで体験してそうなご高齢。

ちなみに漢字だと「隠田鮫」。
「隠田」とは年貢逃れのために
隠している田んぼのことです
しかし、±120というのは誤差としてどうか?
この数字に信憑性はあるのでしょうか。
どうやって調べたのか?
オンデンザメが長寿であるとは予想されていました。
深海魚は寿命が長めなのです。
また、オンデンザメは一年に1㎝ほどしか成長しない。
5mになるには単純に500年かかる。
「いやぁ500年はないだろうけど長生きだろうな~」
と思われつつ、調べるのが難しかったんです。
魚の年齢は主に「耳石」で調べます。
耳の中にある骨で、年輪のように「生きた年数」が刻まれます。
ところがサメには、この耳石がない。
脊椎にも年輪はできるのですが、サメは軟骨なため、輪がくっきりせず見にくい。
そこで、目の水晶体を炭素14測定(C14法)にかけ、数理モデルでの推測も加えた。
その結果が392±120だったのです。
オンデンザメ自体が調査しにくいので、やや大きい誤差はしかたない。
しかし、他の個体を調べても、200歳、300歳が普通に出る。
「500年」も現実味を帯びてきた。
これは、最長寿の脊椎動物とされていた「ホッキョククジラ」の約200歳をゆうに超える。
オンデンザメが相当な長寿であることは違いないようなのです。
長寿は我々の希望でもあります。
今は人生100年時代。
老人はとても元気。
オンデンザメの長寿の秘密を知れば、人間ももっと生きられるかも。
それは可能でしょうか?
「すべてが遅い」が長寿のカギ
例の信長といえば「人生50年~」の「敦盛(あつもり)」。
現在の日本人の平均寿命は84.3歳で世界一。
世界平均でも72歳くらいらしい。
医療が発達すれば、もっと生きられそうですが。
深海魚が長寿になる理由
オンデンザメの長寿には、深海魚であることが関係しています。
餌がない、寒い、繁殖相手ともなかなか出会えない。
空腹も婚活もままならない深海生活。
生物はどうしても動かなくなる。
極地に暮らすニシオンデンザメは、特にその傾向が強いでしょう。
機械でもそうですが、動かせば動かすほど故障も早い。
ましてオンデンザメは深海の王者。
天敵なんていない。
泳ぐスピードは時速1㎞。
襲われる心配がないので、焦る必要はない。
そんなスローライフが長寿の一因であるようです。
さらなる調査で、「代謝」もオンデンザメは特殊でした。

「長生き」というより「長持ち」?
よく言う「新陳代謝」。
これは「古いものが新しいものと変わる」ということ。
人間の細胞も数日から3か月ほどのサイクルで、古い細胞が新しい細胞に変わっている。
生物は常に肉体をリペアしながら生きているのです。
代謝の速度は歳とともに落ちます。
細胞の劣化に、修復が追いつかなくなる。
これが「老化」というわけですね。
しかし、オンデンザメは老いても、
代謝速度が若い頃と変わらないこともわかりました。
これは「代謝が落ちない」というより、
「代謝をゆっくり長持ちさせる」という感じ。
代謝では細胞疲労を進める「活性酸素」が出るので、それも少なくできる。
機械を無理させず、もったいぶって長く使うようなもの。
老ザメも若さを保てるのです。
もっとも、成熟まで150年というオンデンザメの、青春時代や高齢期が「いつなんだよ?」とも思う。
「最初っから老人では?」って気もするけど……。
世代交代しない種の持続
繁殖期も長いオンデンザメ。
高齢出産も可能です。
ただし、妊娠期間は12年もある。
12年も妊婦でいるというのも、気の長い話です。
出産数も魚類にしては少ないほうで、この辺にも「おっとり系」を感じます。

オンデンザメは卵胎生。
生まれた子ザメは40㎝くらいです
こうして見ると、オンデンザメの長寿の理由は――。
深海のスローライフと、代謝の長続き。
その反面、世代交代は遅い。
天敵がいないのだから、生き残れる。
「産めよ、増えよ!」など、弱者の生きる道。
一世代が長く生き、エネルギーを使う活動・繁殖は抑える戦略のようです。
このように「細く、長く」がオンデンザメの生活信条。
コスパだのタイパだの気にするようでは、長生きできそうにない。
でも、長寿で少子化は現代日本と同じ。
オンデンザメ風の暮らしになっていると言えるかもしれません。
まとめ
今も謎が多いオンデンザメ。
寿命も誤差が大きく、けっこう曖昧。
それでも200年以上は普通に生きそう。
環境次第では400~500年もあるのでしょう。
その理由は深海でのスローライフ。
そして、代謝が鈍化せず、老化が進みにくいことのようです。
まあ、長生きの秘訣は「くよくよせず、のんびりと生きること」なんて言われますし。
オンデンザメはその生き方の先輩だったのでしょう。
深海で500年生きるのも退屈そうですが……。
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