180年前のロンドン。
霧の濃い、夜の路地に立つ、背の高い紳士。
それは悪魔の顔と、驚異的な跳躍力を持った怪人。
その名は『バネ足ジャック』!
――もうこの設定だけで、僕はご飯が3杯食えそうです。
歴史上、正体不明の怪人物は数多い。
バネ足ジャックもその一人。
まだ飛行技術がなかった時代に、
数メートルを軽々と飛び越えることができた「空の怪人」です。
史実として、ちゃんと記録も残っている。
僕はこういう話が大好物なんですよ。
バネ足ジャックは、現在の「フライング・ヒューマノイド」の類と思われるのですが、なにかの動物の誤認かもしれません。
イギリス市民が生み出した妄想・都市伝説だったという説もある。
しかし、目撃は近年にもあり、存在感は大きい。
ジャックの騒動を紐解き、正体に迫ってみようと思うのです。
悪魔の化身?バネ足ジャック
バネ足ジャック(Spring heeled Jack)は、イギリスの伝承的人物です。
「スプリンガルド」とも呼ばれ、
日本だと「ネズミ小僧」とか「怪人二十面相」のイメージ。
あり得ないジャンプ力で塀や屋根を飛び越え、悪事を働く。
空想のようですが、実在していました。
彼(?たぶん男)をモチーフに藤田和日郎氏が『黒博物館スプリンガルド』というマンガを描いています。
「ジャック」はもちろん俗称。
ジョン・スミスとか〇〇太郎みたいな未知の人に対する名前で、同様の人物に「切り裂きジャック」がいます。
バネ足のほうは、切り裂きに比べると、やや小悪党なジャックです。
どんな事件を起こしたのでしょう。
バネ足ジャックの犯罪
1837年10月。
ロンドンの通りを歩いていたメアリーという少女が、路地の暗がりから出てきた男に襲われました。
服を裂かれ、胸を揉まれ、顔に何度もキスされる。
メアリーが悲鳴をあげると、男は逃走。
3mの壁を乗り越え、
甲高い声で哄笑し、
カチカチと音を鳴らしていたのが、
多くの人に目撃されます。
「オー!ジャンピングHENTAI!」
と人々が言ったかどうかは不明ですが、ついたあだ名は「バネ足ジャック」。
「足にバネがあるように中空を飛ぶ、謎の男」です。
その後、ジャックはロンドン各地に出没します。
1838年2月19日。
ジェーン・アルソップの家に夜訪れた警官。
「近くで悪漢を捕らえた。火を貸してください」
ジェーンがろうそくを渡すと、警官がマントを脱ぎ捨てる。
赤い目、悪魔の形相。
口から青白い炎を吹いたといいます。
そして、金属製の爪で服を引き裂かれる。
騒ぎに気づいた妹が助けに入り、ジェーンは難を逃れたのです。
その9日後。
アルソップ家にも近い路地で、スケール家のルーシーとマーガレットが、マントの男と遭遇。
やはり、口から火を吹かれ、ルーシーは昏倒。
マーガレットの反撃に男は逃げ、姉妹は無事でした。
「バネ足ジャック」と呼ばれるのは、実はこの頃からです
名前はカッコイイが、やってることは婦女暴行。
しかも未遂で、すぐに逃げる。
スケベで、根性のない、いたずら者といった感じ。
どうしても「HENTAI」のイメージしか湧かない。
怪人というより変人に思える。
バネ足ジャックの特徴
ジャックは他にも騒動を起こしています。
馬車を攻撃したり、兵隊と格闘したり。
何度か銃弾も食らっていますが、ジャックは無傷で跳躍する。
ショックで気を失う人、騒動で怪我をする人も多数。
いたずら、悪ふざけでは片づけられません。
その活動はロンドン以外にも拡がり、人々を驚かせ続けました。
ソールズベリーやリバプール……
デボンシャーで起きた『悪魔の足跡』事件も、ジャックの仕業と考える人もいる。
凶悪犯というより、愉快犯でしょう。
その特徴をまとめると
- 背が高い・痩躯の紳士
- 赤い目、悪魔のように怖い顔
- マント(ランプを持っていることもある)
- 口から青白い火を吐く
- 金属のような爪
- 人間離れした跳躍力(2~7m跳べる)
- バネのついた靴など道具の使用は未確認
ここから正体を探ってみましょう。
人間か?超常的存在か?
ジャックの正体と目された容疑者はいます。
ウォーターフォード侯爵もその一人。
悪たれで知られ、「狂った侯爵」と呼ばれていました。
性犯罪の前科もある。
でも、確定はされていないのです。
誰が正体であろうと、ジャックは人間離れしています。
バネ足ジャックは人間ではない?
背の高い、マントの紳士は英国では珍しくない。
悪魔じみた目や顔は、主観的なもので、顔色の悪い、目が血走ったと捉えれば、人間でも無理はない。
すると、
「金属の爪」「火を吹く」「すごいジャンプ」
が、可能かどうかがポイントでしょう。
熊手みたいなものなら、金属爪は問題なさそう。
火吹きは訓練次第ですかね。
「青白い」というから、火ではなく薬品だった可能性もあります。
わからないのは「ジャンプ」です。
人間が垂直跳びで数メートルも跳べるでしょうか?
走り高跳びの背面跳びでも、世界記録は2.45mなのに。
名の通り、スプリングヒールの特殊な靴だったのか?
でも、そんな靴では走ることも難しいし、跳べても無事に着地できるとは思えない。
ボヨンボヨンして、行動はきつそうです。
バネ足ジャックは人間ではないかもしれません。
フライング・ヒューマノイドとは違う
「クマやカンガルー、大型の鳥だった」という説があります。
オランウータンとかはスケベそうだし、ジャンプ力もあり、爪も鋭い。
ただ、人と会話もしているので、動物説は消える。
とすれば、神や悪魔、高次元の超能力者、宇宙人……。
とにかく、人間を超えた存在でしょうか?
弾丸も効かないんですから。
しかし、やっていることは「姑息な非モテ」みたいなことばかり。
卑猥で、卑劣で、卑屈。
逮捕されていたら、世の笑い者になっていたはずです。
遠い銀河から来た宇宙人が、路地裏にいたいけな少女を連れ込み、オッパ○揉んだりチューチューしたりするのでしょうか?
それがその星の友好的挨拶?
ちょっと考えられません。
現在、話題になる空のUMA「フライング・ヒューマノイド」。
飛行する謎の人間だったのか?
僕は違うと思います。
フライング・ヒューマノイドは「人間に見える飛行物体」。
はっきりと目視できず、「そう見える何か」に過ぎません。
バネ足ジャックは会話・格闘など、ずっと実在感が強いのです。
物質的な被害も出ている。
ジャックは「広義ではフライング・ヒューマノイド」といえるでしょうが、やはり僕らと同じ肉体を持った「人間そのもの」に感じます。
そこで「集団ヒステリー説」が出てくるわけです。
バネ足ジャックは時代を超える!
バネ足ジャックは1904年、リバプールでの目撃が最後です。
活動期間は70年弱。
そんなに長く現役は続けられないので、模倣犯や代替わりがあったはずです。
ジャックは実在したか?
集団ヒステリーは、「一人の興奮・錯乱が、その場の集団に伝播する」現象。
ジャック騒動の場合は、
「“バネ足ジャック”という怪人に対する恐怖が、国中の民衆に共有され、不審者がみんなジャックだと思い込みをした」
ということ。
昭和期の「口裂け女」と同じです。
まず、どこかの「ハレンチ男」が婦女暴行未遂を起こす。
身軽で敏捷な男で、壁なども上手に越えたのでしょう。
それを「ジャンプした」と思い込んでしまった。
同様に催涙スプレーのような武器が「炎を吐く」、刃物が「金属の爪」になったかもしれません。
そして、バネ足ジャックという固有名詞と特色が周知される。
怪しい男、マントの紳士が、バネ足ジャックと思われる。
こんな構図です。
ジャックが現れた1830~40年代は、ロンドンにガス灯が設置された頃。
ガス灯の光が霧で滲む、ロンドンらしい光景ですね。
人々が怯えずに、夜の闇の中を活動できるようになったのです。
しかし、光は影を作るもの。
産業革命もピークを迎え、大英帝国繁栄の裏で、失業者や利権、収入格差など現代的な社会問題も発生していた時代。
バネ足ジャックは、闇から現れ、いたずらの限りを尽くしていました。
ジャックは繁栄の波に乗れず、憂さ晴らしをする一市民。
あるいは、新しい時代で権力を失った貴族だったんじゃないでしょうか。
そんな弱者が各時代に現れ、「バネ足ジャック」と認識された。
真相はそんなところだと僕は思うのです。
近年のバネ足ジャック
一応、ジャックの目撃は1904年が最後です。
でも、それ以降も「バネ足ジャックを見た」報告もあります。
1970年代にシェフィールドで殴られた女性が、「赤い目の怪人」と証言。
2012年、ドライバーが建物を飛び越える人間を見たという話など。
これがジャックかはわかりません。
もう、空はジャックだけのものじゃないですからね。
跳ぶ怪人は、19世紀の大衆の夢を叶えた自由人でもあったのでしょう。
後世、ジャックのイメージはフィクションの怪盗、ダークヒーローに影響を与えています。
しょうもない小悪党なのに……
バネ足ジャックの伝説は、今も継承されているんですね。
まとめ
バネ足ジャックは未知の超人類ではないようです。
動物の誤認でもない。
実在した人間に、大衆心理が肉付けして生まれた創造物でしょう。
その結果、夢と現実の間にいるような、不思議な魅力があります。
バネ足ジャックの逸話は他にもたくさんある。
この記事では代表的な事件をさらっと書いただけ。
興味のある方は、もっと詳しいサイトや書籍もあるので、探してみてください。
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