北極圏からツンドラにかけて生息している『レミング』。
海に飛び込んで集団自殺をするネズミ。
この生態一つで、知名度はやたらと高い。
「まるでレミングだ」といえば、
「大勢が破滅・災厄に自ら向かう様子」を表す。
レミングの一語で、けっこう複雑な状況を表す形容詞になっちゃってます。
しかも、世界中で通じるんですよ。
でも、レミングは自殺なんかしないんです!
「死の行進」だの「集団自殺」だのは嘘。
ほとんど都市伝説。
僕も長い間信じていたので、事実を知ったときは愕然としました。
デマが広がったのには理由があります。
どうやら、あの世界的映画会社の“やらせ”らしいのですが……
レミングはなぜ移動するのか?
レミングの生息地は北極に近い。
カナダ、ロシア、スカンジナビア半島の北辺。
寒いし、餌も少ないし、生活は苦しそう。
「だから命を絶つのか……」
そんなわけはありません。
レミングの生態
レミングの大きさは13~17cm。
手の平に乗るサイズですね。
ハムスターの近種になり、見た目も似ています。
普通に「可愛いネズミ」ですよ。
レミングのほうがずんぐりしていて、耳は小さく、足は短い。
寒冷地に棲むので、体温を逃がさぬよう、凸凹部位を極力小さくしているのでしょう。
草食で、前足の爪は雪を掘ってコケや草を見つけやすいよう平ら。
雪かきのスコップ型というか。
毛色は茶褐色で、岩場では目立ちにくい。
でも、レミングは冬眠せず、雪上を行動することもあるので、冬は逆に目立つ。
フクロウやオコジョの「いい餌」です。
冬に毛色が白くなるレミングもいます
そんな理由で、レミングは激減することもあるのですが、逆に増えることもあります。
3~4年周期で、増減を繰り返すのです。
理由はよくわかっていません。
たぶん、捕食者の数や、その年の食料(植物)の量によると思われます。
増えすぎれば、生息地は飽和状態になる。
そこで集団移動が必要になるわけです。
レミング「死の行進」の真実
レミングの和名は「タビネズミ」。
渡りのような移動をするからです。
これが「死の行進」と呼ばれる。
しかし、前述したように、数が増えたので新たな餌場を求めて旅立っただけ。
むしろ「希望の行進」です。
レミングは移動するため、泳ぎも上手。
海や川にも躊躇わず飛び込みます。
アフリカでゾウやヌーの群れが川を泳ぎ、大移動しますが、やっていることは同じです。
ただ、移動は危険も伴う。
泳ぎ上手なレミングでも、川越え・海越えは多少の犠牲がでます。
小さなネズミが、死も恐れず海を渡る光景が、
「無謀な旅」「死への突撃」「地獄へのハイウェイ」
に見えたのでしょう。
ネズミの移動は不吉?
レミングの死の行進は500年も前から知られていました。
とはいえ、レミングは北極圏の動物なので、遠い地方の「伝聞」だったと思うのです。
それで「移動」が「破滅への行進」と盛られた節もある。
ネズミの大量発生と大移動は、昔から不吉の前兆。
聖書にも「災害の前ぶれ」と描かれます。
現地では、恐怖と感じられていたはずです。
「レミングは海を渡り、失われたレムリア大陸へ向かっているのだ」
という、変な説もあったそうです。
レムリアは、インド洋にあって沈んだといわれる伝説の大陸。
大西洋のアトランティス、太平洋のムーと並び語られる、三大ロストワールドのひとつ。
レミングの大移動が、それだけ不思議な生態と捉えられていたようです。
しかし、レミングの死の行進が、世界中に広まったのは20世紀。
「映像」という新しい技術が登場。
「百聞」が「一見」となり、完全に定着してしまったのです。
世界が目撃した「死への旅」
レミングへの誤解は最近まで続いていました。
冒頭にも書いたように、「レミング」は形容詞にもなった。
「集団が」「強迫観念のようなものに駆られ」「破滅へと突き進む」。
とても運命的な結末の比喩です。
日本史でいえば、203高地とか、インパール作戦が例えられるかもしれません。
また、多忙や仕事のプレッシャーから思考停止に陥り、リスクも考えずに危ないプロジェクトを進めてしまうことも、「レミング症候群/レミングシンドローム」といわれる。
でも、「見る」と「聞く」ではだいぶ違う。
話だけなら、ここまで周知されなかったでしょう。
集団自殺を世界中に見せたのが、デ○ズニー映画の『白い荒野』です。
犯人はアカデミー受賞映画?
『白い荒野』は1958年に制作されました。
日本でも1960年に公開されています。
アニメではなく、ドキュメンタリー映画です。
この中に、レミングが断崖から次々と飛び込むシーンがあります。
「希望を失ったネズミたちが、自ら死を選んだ」
みたいなナレーション付きで。
この悲しい習性は、多くの人の琴線に触れました。
ある意味、戦争や現在のポリコレ至上主義もレミング的ですもんね。
集団ヒステリーというか。
人間も「明日は我が身」とシンパシーを感じてしまう。
『白い荒野』はアカデミー賞で、長編ドキュメンタリー映画賞も獲得。
悲しい習性が世界的に知られた。
レミングの死の行進は、疑いのない事実となったのです。
演出があったノンフィクション
レミングの自殺は、1980年代まで普通に信じられていました。
いや、専門家はさすがに「違うんじゃないかな~」と思っていた。
生物のプログラムに「自殺に向かわせる」命令があるとは思えません。
しかし、集団自殺するレミングはすっかり定着済み。
一般知識としては覆らなかったのです。
それが、カナダなどの最新ドキュメンタリーで、集団自殺じゃないことがわかった。
死ぬための進軍はデマです。
さらに『白い荒野』では、ドラマを盛り上げるために、現地の人からレミングを購入し、まるで飛び込んでいるように崖から投げ入れていたことも発覚。
集団自殺の迷信があったので、飛び込んでもらわないと「映画にならねーよ」だったんでしょうね。
演出と見るか、ヤラセと見るかは、それぞれで判断してください。
現在なら動物愛護団体が黙ってないだろうに……。
まあ、それを本物らしく撮るカメラワークの高さとか巧妙な演出は、さすがデ○ズニーという気もしますが。
ネズミが稼ぎ頭なのに……
レミングの自殺はまったく事実無根です。
でも、誤解が払拭されているとも思えない。
今もレミングといえば、「自殺する愚かで気の毒な小動物」です。
ここまで定着すると、変えるにも時間がかかりそう。
僕も知ったときは、「死なねーのかよ!」と思いました。
理不尽なツッコミです。
レミングからしたら「そんなこと期待されても無茶振りだわ~」となるんでしょうが。
まとめ
レミングは自殺なんかしない。
死へ突き進む動物なんて、おそらく人間くらいでしょう。
きっと、そんな人間の愚かさを、レミングに投影した結果といえそうです。
「自分がそうだから、相手も同じ」と考えてしまう。
考えてみれば、投影が誤解を生むことは多い。
僕らの知識には、間違った部分もたくさんあるんでしょうね。
「自分の目で確かめて、真実を知る」
レミングの迷信から、僕らが学ぶべきはこれだと思います。
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