割と知られている「エキノコックス症」。
聞いたことがあると思います。
「キツネの寄生虫」
「人間にも感染する」
「致死率が高い」
「北海道では注意しよう」
なんとなくこんな印象でしょうか。
実際、北海道ではよく注意喚起されています。
ほとんどは「北海道で感染する、キツネが媒介する病気」くらいのイメージじゃありませんか?
それは間違いです。
エキノコックスは他県でも確認されています。
しかも、キツネ以外のイヌやネコに寄生することもわかっている。
北海道のキツネだけが危険というわけではないんです。
エキノコックスは致死率90%ともいわれる。
おまけに気づきにくく、不調が出る頃には手遅れってことも。
かなり厄介な感染症なのです。
エキノコックスについて知ろう!
エキノコックスは寄生虫の一種です。
分類では「扁形動物門・条虫綱・真性条虫亜綱・円葉目・テニア科・エキノコックス属」。
何者なんだかさっぱりわかりません。
扁形動物はヒルやプラナリアなどのグループ。
寄生虫のサナダムシ(条虫)も含まれ、その仲間にエキノコックス一族がいる。
その総称が「エキノコックス」と呼ばれます。
さらに「単包条虫」と「多包条虫」に分けられるのですが、一般的にエキノコックスと知られているのは多包なので、記事でも多包条虫のほうで書いてゆきます。
成虫の体長は4mmくらい。(単包は2~7mm)
数メートルにもなるサナダムシの「超短小型」って感じです。
エキノコックス寄生の流れ
エキノコックスと言えばキツネ。
セットにされて周知されています。
エキノコックス成虫がキツネに寄生しています。
この時、キツネに被害はなし。
腹をくだすくらい
成虫は産卵し、卵は糞と一緒に外に捨てられます。
卵は草などに付着し、ネズミがそれを食べる。
ネズミの体内で孵化した幼虫は、機能を低下させます。
不調のネズミは食べられやすい。
キツネに食われて、引っ越し完了。
そこで成虫になるというサイクルです。
最終宿主がキツネ、中間宿主がネズミというわけ。
けれど、寄生されるのはキツネとネズミだけではありません。
イヌやネコにも感染します
エキノコックスは高緯度の寒冷地にいます。
日本では北海道になり、そこで一番ネズミを採るのがキツネ。
だから、キツネが宿主になりやすいのです。
でも、ネズミを食べるのはキツネに限りません。
タヌキ、イタチ、ネコにクマ……。
肉食動物はみんな危険がある。
エキノコックスは主にイヌ科の動物に寄生しますが、ネコが持っている事例もあるんです。
ただし、エキノコックスにも好みがあって、繁殖しやすいのがキツネとイヌ。
ネコよりも圧倒的にイヌが危険なのです。
もっとも飼い犬はそれほど心配ないでしょう。
ネズミを食べることもないですし。
しかし、散歩中にエキノコックスの卵が付着することはあるかもしれません。
キツネが出るような自然いっぱいの場所で、犬を遊ばせたりすることってないですか?
卵は野草についていたり、川の水に混じっていることもある。
大きさは0.03mmほどで、肉眼で確認できません。
そんなペットにスリスリした拍子に、卵が飼い主の口の中に……なんてことはあり得ます。
それが怖いのです。
危険なエキノコックス症
エキノコックスは人の体に入ってもすぐ症状は出ません。
子供なら5年ほど。
大人で10~20年の潜伏期間があります。
その間、孵化した幼虫は主に肝臓に病巣を形成。
キツネに接触したことなどすっかり忘れた頃に、痛みに襲われるのです。
「沈黙の臓器」といわれる肝臓なので、進行もわかりにくい。
病巣は時に直径10㎝以上になり、肝臓肥大を起こします。
加えて、腹痛、発熱、貧血、黄疸などに苦しむことになる。
けっこう時限爆弾です。
さらに、肺や骨髄に転移することもあって、重篤な被害を引き起こします。
放っておくと致死率は90%!
人と運命共同体のサナダムシと違い、エキノコックスの人への寄生は失敗ケースなので、腹いせでもないだろうけど、宿主道連れの自爆テロも容赦ない。
早期の発見なら完治も可能です。
しかし、転移していれば再発の可能性が高く、その場合は一生付き合うしかありません。
こんなに怖いエキノコックス。
今は「北海道だけ」の脅威ではないようです。
エキノコックスは日本中にいる!
「キャリアー」――新型コロナでよく聞きました。
「運び屋」ですね。
宿主のネズミが海を渡れば、北海道外へエキノコックスも運ばれます。
1999年にお隣の青森県で確認。
その後は本州各地、九州、そして沖縄でも見つかっています。
北海道から運ばれただけではないようです。
国外から来た犬が持ち込んだものもある。
迷惑なインバウンドというか。
コロナ同様、人やペットの移動がエキノコックスを広めているといえます。
今はまだ少数。
しかし、広まる恐れがないとは言えません。
「北海道以外は大丈夫」が通用しない時代。
どうすればいいんでしょうか?
エキノコックスへの対応
……と、さんざん煽っておいてなんですが、実はエキノコックスはそこまで心配はありません。
筆者は北海道在住で、キツネも時々見かけます。
でも、エキノコックス症に罹った人と一度も会ったことがありません。
僕の人付き合いの悪さを差し引いても、エキノコックスはそれほど多くないのです。
日本での発症者は年間10~30人。
比較になるかわかりませんが、ハブに咬まれる人が年に50~60人くらいだそうで、病気としてはレアな部類ではないかと。
そんなに多かったら住めません
致死率も90%と言われますが、「放置していたら10年以内には9割死ぬ」というのが正しい。
発症してから適切に治療すれば、ほぼ助かります。
それでも怖い寄生虫ですし、治療も手術になりますから、最低限の予防は心掛けたいものです。
エキノコックスを防ぐ
北海道ではキツネの3~4割がエキノコックスを持っているそうです。
寒冷地ほどエキノコックスは繁殖しやすい。
しかし、温暖な他県でも症例があるため、注意は大事でしょう。
キツネ、野犬に触れることは避け、それらの動物が近づかないように、生ごみの放置、餌やりなど慎むべきです。
元凶は遠ざけろ、ですよ。
触れたときはしっかり手洗いしましょう。
山菜などもよく洗うことです。
エキノコックスの卵は熱と乾燥に弱く、夏なら寿命はひと月、冬であれば数か月も生きています。
煮沸は60℃以上で5分もすれば死にます。(100℃なら1分程度)
川の水はなるべく飲まず、飲むときは沸かすほうが安全です。
エキノコックスにとって、人への寄生は想定外。
なので、体内に侵入されても生きてゆけず、問題がないこともあります。
そこまで神経質に心配する必要はないでしょう。
それでも、気になることがあれば病院での検査を受けるのも手です。
エキノコックスは血液検査で判明します。
北海道では自治体が無料で検査してくれる場合もありますが、道外では自費になることが多い。
検査費用は16000円くらいだそうです。
ちょっと高いですね。
でも、健康はプライスレスですから。
まとめ
エキノコックスは北海道で見られる寄生虫。
成虫がキツネの体内で産卵。
その卵を口にすることで、幼虫が人間にも寄生します。
死ぬこともあるし、なにより寄生虫なんぞに腹貸すのも気分悪い。
そんなのが日本中に広まっているのは事実。
しっかり予防するのがいいでしょう。
感染率は低いですが、注意に越したことはない。
外から帰ったら手を洗う。
野菜や水は火を通す。
基本的なことで防げますから、無理なく対策できそうですね。
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