「動く死体」ゾンビ。
サブカルチャーでもよく登場し、
今や露出度No.1モンスターじゃないでしょうか。
僕らの知るゾンビ像も、それらフィクションが作ったものです。
しかし、ゾンビは空想の怪物ではありません。
その実在は多くの文献に記されています。
それも映画やゲームで見るようなものとは違う。
永遠の眠りから目覚めされられ、過酷な奴隷にされる存在。
ゾンビは悲しい運命の死者なのです。
本当にそんなゾンビがいるのでしょうか?
リアルゾンビの物語は、悲惨に溢れています。
ブードゥーが生んだ真実のゾンビ
皆さんのゾンビのイメージは?
・墓から蘇り、人間を襲う。
・意思を持たない。
・動きは遅い。腕を前に突きだして歩く。
・腐敗しているような肌の色。
・ゾンビに咬まれると、生きた人間もゾンビになる。
・痛みを感じない。死なない。
……こんな感じじゃないですかね。
でも、これは映画の話。
実際のゾンビはハイチの伝承に登場します。
ゾンビは奴隷の運命だった!
カリブ海に浮かぶハイチで盛んなのが「ブードゥー教」。
アフリカで発生し、ハイチで独特な進化を遂げた民間信仰です。
魔術的で、シャーマニズム色が濃く、映画などでも使われますね。
そのブードゥーの秘術で生まれるのが蘇生者ゾンビ。
墓の前で、司祭が名前を呼び続けると、その死者が蘇るのです。
これがゾンビ。
しかし、ゾンビはすでに魂を失っている。
命じられるままに動くロボットのようなもの。
農場などに売られ、主に絶対逆らわない奴隷として、ずっと働かされるのです。
ただし、塩を食べさせてはいけない。
塩分入りの食べ物は全部OUT!
塩でゾンビの術が解け、発狂して墓に戻るといわれています。
また、亡くなった人が数年後家族のもとに戻り、
ゾンビだったことを語ることもあるそうです。
ゾンビにされる人間とは?
ハイチでは、ゾンビにされることは最大の恐怖。
人権も尊厳もなく、死後も家畜のようにこき使われるなんて浮かばれません。
まさに、死者に鞭打つ行為、冒涜です!
ゾンビにされるのは
「犯罪者」や「裏切り者」
といった悪党だそうですが、それも司祭の気分次第。
仲のよくない近所の住人だったり、冷たくされた配偶者や恋人が、逆恨みから司祭に告げ口すれば、普通の人でもゾンビにされる可能性があるのです。
遺族はそれを怖れ、埋葬後しばらく墓を見張ることもあるらしい。
それだけゾンビは、広く信じられているのでしょう。
でも、死人が蘇るとはにわかには信じられません。
なにかカラクリがあるように思えます。
ゾンビ作成薬「ゾンビパウダー」
ゾンビを作るために、「ゾンビパウダー」なる怪しげな薬が用いられるといいます。
ゾンビパウダーは、人を仮死状態にする薬。
『ロミオとジュリエット』で、ジュリエットが飲んだ薬みたいなものなのかな。
司祭は深夜、狙う人間の家に忍び込み、ゾンビパウダーを傷口にふりかける。
すると、その相手は「死んだ」と判断され、埋葬されます。
薬が解ける頃合いを見て、司祭は死者を復活させる。
早い話が「ヤラセ」です。
まあ、宗教的権威者はこのくらいの奇跡を演出しないと、やってられないんでしょう。
シャーマンである司祭は、医師でもある場合が多く、自作自演しやすい。
ゾンビは薬のせいで前頭葉をやられ、意思のない人形になっているという寸法です。
ただし、この話も信憑性はありません。
ゾンビパウダーは実際にあり、フグ毒が使われているという調査結果も出たというんですが、仮死状態にすることはできそうもない。
おそらく、儀式で使用する麻薬のようなものでしょう。
ゾンビを人工的に作ることも無理そうです。
では、ゾンビの話はどこから出てきたのでしょう?
ゾンビの誕生と変遷
「死者が蘇る」というのは珍しい考えではありません。
西洋の「吸血鬼」、中国の「キョンシー(殭屍)」などもリビングデッドです。
土葬する地域では当たり前にある。
肉体は残っているので、死んで魂のない抜け殻がさまよい歩く空想が生まれたのでしょう。
また、昔は「死んだと思ったら生きていた」という医療ミスもあったと思う。
そんな蘇生者の噂が「黄泉がえり」の話になったかと。
ハイチのゾンビには歴史背景もあります。
ゾンビは実在している?
ブードゥーはもともとアフリカの信仰。
魔術的な宗教と思われがちですが、神が憑依するとか、生贄を捧げるとか、原始的なところがあるだけで、悪魔崇拝みたいなのではありません。
ハイチを占領したアメリカが、
土着信仰のブードゥーが邪魔で、
映画で悪いイメージを作ったともいわれています
その後、アフリカの黒人は奴隷にされ、ハイチにも連れてこられます。
そこでは過酷な労働が待っていました。
つらい生活で「死にたい」と思うこともある。
そんなときに「死んじゃだめだ」という反意を裏づけするのに、「死んだらゾンビにされて、やはり奴隷にされる」という恐怖が必要だった。
ゾンビはブードゥーに元からある概念。
都合がよかったんでしょう。
奴隷の間で生まれたものか、死なれては困る雇い主が広めたものかはわかりません。
死んでも救われないと教えるのがゾンビなのです。
ゾンビの正体は精神疾患の人間という説があります。
痴呆のようになって町をうろついている生者です。
それが原因で家族から捨てられたのかもしれません。
見かけた誰かが、「これは10年前に死んだ私の父親だ」などと勘違いしたとする。
多少容貌が変わっていても、10年間ゾンビにされていたと解釈すれば問題ありません。
亡き人に戻ってきてほしい気持ちはどこも一緒。
思い込み、認知バイアスの類ですよ。
これがゾンビ実在に信憑性を持たせる。
ゾンビはこのように形成されたと考えられます。
さらに、ゾンビのイメージは変わり続けていました。
近代のゾンビ
見てきたように、ゾンビは憐れな死者。
人を襲う、咬みついてゾンビを増やす、などは後から加えられた設定にすぎません。
映画やゲームは、ゾンビが大好きですよね。
俳優がちょっとメイクするだけで安上がりのモンスターという理由もあるでしょうが……。
ゾンビは「感染症」のメタファーといわれます。
コロナ騒動を見ても、「なかなか殺せず、増殖する敵」は怖ろしい。
それの見える姿がゾンビなのです。
映画のゾンビのイメージも、狂犬病患者がモデルといわれます。
意識が混濁し、攻撃的になる。
人に咬みつくというのも、狂犬病で見られる行動。
現在も世界で年間5万人ほどが
狂犬病で亡くなっています
また、ゾンビはアウトローの象徴ともなっています。
「気力のない投げやりな若者」
「他人の迷惑を考えない人」
「反社会的なロビイスト」
いわゆる「はみだし者」をゾンビに例えることもありますね。
どちらかといえば悪いライフスタイルで使われる。
自分の欲求さえ満たせれば構わないという、別な意味のモンスター。
それらが群れ、マジョリティーとなって襲ってくる。
やがて自分も染められる。
ホラーでしかありませんよ。
納得できないポリコレに渋々従わされるイメージというか。
もちろん、ゾンビはハロウィーンでも人気キャラ。
可愛いゾンビちゃんもよく見る。
奴隷人形なんて悲惨さはなくなっています。
しかし、ゾンビの成り立ちは不幸なもの。
意味が変わってしまっても、ゾンビは死も許されない半亡者。
休むことのない奴隷であることも、たまに思い出してください。
まとめ
ゾンビはブードゥーの魔術で蘇った死者。
決して幸福なものではありません。
ゲームでゾンビを次々撃ち殺すことが快感って人も多いでしょう。
でも、本当のゾンビに罪はない。
魂を失ってもなお生かされ、働かされる永遠の社畜といった存在。
この世でこんな悲惨があるでしょうか。
「ちゃんと死なせてほしかった!」
ゾンビの唸り声は、そんな訴えなのかもしれません。
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