珍獣バビルサ「自分の牙で死ぬ?」「毒草も食う」なぜそうなった?

陸生動物

「この最強の必殺技を使えば、お前の命も尽きる」

少年漫画などによくある設定ですよね。

スゴイ技を犠牲もなくポンポン出されても話になりませんしね。

異世界チート物じゃないんだから。

そんな諸刃の剣を持っているのがバビルサ

イノシシの仲間です。

このバビルサは立派な牙を持っています。

その牙がどんどん成長し、自分自身を貫いて死ぬ。

そんなアホな!って思いますよね。

しかも、毒草もムシャムシャ食べる。

こんな向こう見ずな動物、本当にいるんでしょうか?

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「自分の死を見つめる」バビルサとは?

バビルサはインドネシアの一部にしかいません。

大きさは1mくらい。

小ぶりなイノシシだと思えばいいでしょう。

体毛が短いので、ブタっぽく見えるかもしれません。

でも牙はちゃんとある。

それがとんでもない牙なんです。

伸びた牙が自分の頭に刺さる?

バビルサは上下に2対の牙があります。

ちょっとカッコいい四本牙

バビルサは現地語で「ブタ」と「シカ」の合成語。

それは30cm以上にもなる、シカの角にも負けない牙なんです。

下の牙はもちろん上に伸びます。

ところが上の牙はフック型で、下に向かって伸びるとクルリとカーブして上に向かう変な牙。

鼻を貫いて、やはり上に伸びるのです。

フック状の牙は先端を自分の頭に向けることになります。

それが成長するたび、脳天に近づいてくる!

最後にグサッ……。

動画だと危なっかしいのがよくわかるでしょう。

Mundo Animal, Babirusa.

……これ絶対刺さるでしょ。

バビルサは「自分の死を見つめる動物」といわれているのです。

これもう拷問ですよ!

僕は尖端恐怖症の気があるんですが、バビルサには生まれ変わりたくないな。

毎日が冷や汗ものです。

どうしてこんな愚かな進化を遂げたのか……と思うんですが、この話はデタラメみたいですよ。

牙が刺さるは嘘。伸びた牙はどうなる?

バビルサの牙は、たしかに脳天に届きます。

でも、たかが牙。

上唇を貫けたからって、硬い頭蓋骨には歯が……いや牙が立ちません。

頭に届いた牙はどうなるか?

おでこのところで、またクルッとなる。

そのまま蚊取り線香みたいになるだけです。

自分の牙が頭に刺さるというのは、単なる与太話。

見た人が「そのまま伸びたら刺さっちゃうよ~」と思っただけでしょう。

ちょっと安心。

まあ、牙が迫ってくるのは事実ですから、尖端恐怖症には同じことですが。

このやり過ぎな牙がなぜあるのか、よくわかっていません。

戦いの武器や、異性へのアピールと考えられています。

大きな牙があるのはオスだけです

実際に争うときは、上牙を盾にして攻撃は下牙と使い分けられています。

強ければメスにもモテる!

しかし、バビルサの立派な牙は別な意味で、自分自身の命を縮めています。

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密漁が止まらない絶滅危惧種

バビルサの牙は、人間には魅力的です。

神々しくもあり、悪魔的でもある。

こんな珍獣を人間が放っておくわけありません。

バビルサは狩られたり、贈答品にされることが多いのです。

たしかに四本牙のバビルサの頭、壁とかに飾ってみたい気もしないでもない。

数は減る一方なのです。

バビルサの生息地は点々としています。

これは人間の手であちこちに運ばれたから。

生死はともかく、持ち出される動物だったということ。

さらに子だくさんのブタ・イノシシ種でありながら、バビルサが一度に産むのは1~2頭。

頼りない出生率です。

メスの乳首も一つだけ。

最初から多数を産むようにできていない。

個体数は増えず、今はワシントン条約で取引禁止の絶滅危惧種

インドネシアでもコモドドラゴンと並ぶ固有種として、国法でも保護対象です。

そんな理由で研究もスムーズにいかないのですが、かなり変わり種のイノシシであることはわかっています。

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毒まで食らうバビルサの食性

バビルサは雑食。

その中には有毒な植物も混じっています。

どこまでも死と隣り合わせの動物です。

毒草を食べては、解毒効果のある温泉水や泥も飲み、ゆっくり消化する食生活。

バビルサは牙が邪魔で、普通のイノシシのように鼻で地面を掘ることができません。

そのため、毒はあるけど栄養の高い草を摂取し、独自の消化法を獲得したのでしょう。

バビルサは牛?豚?深刻な問題だった

胃が3つあることも解毒の助けになっています。

ところで、牛は胃が4つというのは有名ですよね。

焼き肉の「ミノ」「ハチノス」「センマイ」「ギアラ」ですよ

胃が複数個あるとしたら反芻動物

食べたものを何度も飲み込んでは戻してムシャムシャする。

牛がそうですよね。

実はバビルサは反芻しないことがわかっています。

でも牛と同じ反芻動物だと思われてきたわけです。

つまり牛扱いしていいのか、豚扱いしていいのか、わからなかった。

「どうしてそんなことが気になるの?」ですよね。

イノシシなんだし、見た目も豚なんだから、豚に決まっています。

そこには引くに引けない事情がありました。

日本では牛も豚も変わりませんが、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒の多いインドネシアではそうはいきません。

イスラムの教えでは「豚は不浄で、食べてはいけない」となっている。

ヒンドゥーでは「牛は神聖な動物」

どの動物に組み入れるか間違うと、神に逆らう行為になる。

牛か豚かは大問題なんです。

反芻しないことが判明して、やっと「豚扱いに決まり」となった。

といっても、イスラム教徒に食べられないってだけで、「不浄」の汚名は受ける。

バビルサにしたら「神聖な牛のほうがよかった」かもしれませんが。

なんだか暮らしにくそうなバビルサは、現在4種類知られています。

その総数は数千頭。

日本の動物園にはおらず、過去に飼育されたこともない珍獣中の珍獣なんですね。

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まとめ

「メメント・モリ」――「死を想え」を地でいくバビルサ。

「自分の死を見つめる」なんて中二病が好きそうな設定ですが、まったくの嘘でした。

自分の牙が頭に刺さるなんてアホな進化するわけないですもんね。

しかし、珍妙な牙が密猟者を引き寄せ、種の存続を脅かしているのも事実。

結局は牙に振り回されている動物ですよ。

きっと昔は大牙、大角の派手な動物も多かったんでしょうね。

それをバビルサは現代まで受け継いでいる。

太古を感じる魅力的な動物だと思います。

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